<h4>石踊 千夏</h4>大阪市出身。22歳で熱帯雨林の保護活動を夢にインドネシアに渡るが、ジャングルに出会えず数年間意味もなく放浪。2000年にバリ島で日本語学校を設立する機会を得る。長男出産を機に息子のためにと託児所を建て、やがてそれが保育園、2020年には小学校をオープンすることに。現在、9歳と6歳の双子の母親兼、校長として理想の小学校づくりに奮闘中。

グローバルレポート7月のテーマは「多様性」。 英語ではDiversity（ダイバーシティ）と言います。多様性とは、年齢、性別、人種、国籍や肌の色、障害の有無など外的な要因だけでなく、経験、趣味嗜好、価値観や習慣​​など内的な要素も含みます。いろいろな民族によって成り立っている外国と比べて、単一国民国家の日本ではなかなか根付くことが難しい考え方かもしれません。移民大国のアメリカでは古くから人種差別や女性解放運動がなど、社会問題を背景として差別撤廃運動が盛んに行われてきました。スウェーデンなど北欧の国々もダイバーシティ先進国として紹介されますよね。 日本でも近年では企業の人事関係ではとても重要な取り組みになっています。ダイバーシティと同様に重要視されているのがInclusion（インクルージョン）です。インクルージョンとは、「包括」「一体性」といった意味で、多種多様な人々が平等に機会を与えられるという意味になります。そこで、Soda!ファミリーレポーターのみなさんの生活する国々で、多様性を感じることについてレポートしていただきました。

『多様性を大事にしたい』ということは、私が自分の学校づくりにおいて大事にしている点なので、多様性について考えることも多いつもりではあったのですが、このSoda!ファミリーレポーターになって、多様性というものを改めて意識して見つめる機会が多くなってきたなと思います。 そして多民族国家のインドネシア、中でも世界各国からの移住者が集まるバリ島に住んでいるので、自分の置かれている環境は多様性があふれているのだと思っていましたが、Soda!ファミリーレポーターのほかのメンバーの国々、アメリカやシンガポールやイギリスなども、移民も沢山住んでいるでしょうし、ほぼ単一言語で単一民族の日本があまりにも多様性が無さすぎるということを改めて感じました。<h2>イスラム国家でありながらほかの宗教にも寛容</h2>私は、インドネシアに住んでもう今年で25年になります。ですので、今月のテーマが多様性と決まったとき、ここにある多様性があまりにもあたり前過ぎて、さほど気に留めることなく過ごしていますし、また逆に多様性の題材になりそうなことも多すぎてちょっと悩んでいました。そんな中、改めて感じたことは、インドネシア、特にバリ島がそうかもしれないのですが、宗教の違いを互いに尊重する姿勢がよく見られることです。 インドネシアは世界一のイスラム国家でもあるのですが、ほかの宗教に関しても寛容で、国民にはイスラム教、ヒンドゥー教、キリスト教（プロテスタント、カトリック）、仏教、儒教も国教として認められていて、信仰の自由が保障されています。

<h2>異なる宗教のコミュニティーが共存し自然に助け合う社会</h2>しかし無信仰という概念がないのでしょうか、日本人のように、特に決まった宗教はない、とか、無信仰だと言うと、とてもびっくりされます。今でこそ少なくなってきましたが、こちらの人には信仰がないというのは理解不能なのかもしれません。 役所や銀行などのフォームにも自分の宗教を書く欄があるのですが、そこにも“その他”の選択肢はありませんでした。（笑） バリ島は信仰心が厚いヒンドゥー教が多いので、それが独特の文化として世界の観光客を魅了するポイントにもなっています。 観光は産業のメインですので、ホテルやレストランなどの観光業に従事する人も多く、職を求めてインドネシア中から多くの人が移り住んでいることも、多くの宗教が存在する理由だと思います。 ヒンドゥー教のお寺は、当然いたるところにあるのですが、実は教会やモスクなども沢山あります。 インドネシアの人はだいたいにおいて宗教の種類に関わらず信仰心が厚いので、イスラム教なら毎週金曜日、キリスト教なら毎週日曜日、礼拝の時間は沢山の人が礼拝を行う場所に集まり、道路もとても混み合うのですが、ヒンドゥー教のコミュニティーの人が交通整理を手伝ったり、異宗教のコミュニティー同士が助け合ったりする様子がよく見られます。

<h2>違いを認め、互いを尊重することで平和が保たれる</h2>インドネシアでは、一般的に何かの式典やイベントなどのスピーチの際、大統領がスピーチする場合（またはバリ島以外の場所では）はじまりの挨拶はイスラム教の挨拶である「アッサラームアライクム」だけだったのですが、数年前からは開かれている場所や、式典の種類に関わらず、各宗教の挨拶から始めるというのが当たり前になってきました。 市民の日常生活レベルでは、お互いの宗教の違いをさほど意識せずとも尊重し合う習慣が既についているのですが、それでもやはり宗教の違いはとてもセンシティブな問題で、ときに大きな争いに発展したという経験を何度もしているインドネシアだからこそ、コミュニティーとして何らかのアクションを起こすときは特に意識して争いを避けるように努めているのかもしれません。 学校でも宗教の授業というものがあり、小学校から「宗教」の時間になるとそれぞれの宗教ごとに分かれて授業が行われます。 私も子どもができる前、もし自分の子が生まれたらどの宗教に入れればいいのかなと懸念していました。というのも、やはり同じ民族同士、宗教同士でコミュニティーをつくってしまいがちです。中学生くらいにもなればもうお互いの違いを認めることが自然とでき、友達のつくり方もそれぞれ違ってくるのですが、まだ多様性について意識したり、認め合うことを習い始めたばかりの小学生だと、半分外国人でもある子どもがどう判断されるのか・・・そこで白黒分かれてしまいそうで、無難に『ブッダ』としておこうかと思ったりしていました。

<h2>多様性の中で生きていく上で宗教について学ぶことは大切</h2>幸いにも、バリ島にはインターナショナルな子どもが多いということもあるせいか、そういった子が通う学校では『宗教』の授業はそれほど影響力もなく、私の子どもも、私の学校に通っているのですが、今のところ宗教の授業は取り入れていません。 ということもあり、今までは子どもたちと宗教に関して話す機会もなかったのですが、先日ある女の子が「私は神を信じない」と発言したのに対し、家庭がキリスト教である男の子が「神を信じない人間は悪い奴だ」ときっぱりと意見をし、一緒に話を聞いていたイスラム教の先生が内心焦るというケースがありました。 『宗教』というテーマは、多様性の中で生きていく、ということを学ぶ上で、避けては通れないことなので、これからは子どもたちとこのテーマに向かい合うことも多くなるんだろうな、と先日先生たちとも話していました。ちなみにうちの家庭では、子どもたちは私が設置した神棚に毎朝手を合わせ、満月のときにはヒンドゥー教のお寺にお参りに行き、イスラム教の主人の家族には「アッサラームアライクム」と挨拶をしながら、まさに多様な『宗教』について学び始めたばかりです。

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