<h4>石踊 千夏</h4>大阪市出身。22歳で熱帯雨林の保護活動を夢にインドネシアに渡るが、ジャングルに出会えず数年間意味もなく放浪。2000年にバリ島で日本語学校を設立する機会を得る。長男出産を機に息子のためにと託児所を建て、やがてそれが保育園、2020年には小学校をオープンすることに。現在、9歳と6歳の双子の母親兼、校長として理想の小学校づくりに奮闘中。

2025年最初のグローバルレポートは、海外で子育て中のみなさんに、お子さんの教育について気がかりに思っていることや、悩んでいることについて聞いてみました。 幼稚園から大学生までさまざまな年齢のお子さんがいるファミリーレポーターのみなさん。 それぞれ現地での学校や勉強、進学など教育に関する悩みごとや心配ごとなどを共有してみたいと思います。

多国籍国家インドネシア。なかでも在住外国人が多いバリ島では、ほかのインドネシアの地域とは全く違った教育事情があります。 バリ島には、公立の学校のほかに、主に2種類のインターナショナル系の学校があり、ケンブリッジやIB（インターナショナル・バカロレア）、シンガポールのカリキュラムで学びを進める学校がたくさんあります。そういった学校は国の定めるインターナショナルスクールのカテゴリーには入らないのですが、在籍している生徒はバリ島在住の外国人の子どもや、私の子どもみたいにダブル国籍を持つ子どもが多く、学校では英語を使っているので環境的にはインターナショナルな学校になるかと思います。 このような学校は『ナショナルプラス』と言われます。 私も、自分の経営する保育園で小学校部をつくっていくプロセスではじめて、このナショナルプラスの学校のしくみがわかってきました。

私が小学部をつくると決めたときに、認可校にするか、認可外にするかという判断に迫られました。 インターナショナルスクールと認定された学校以外の学校は、自分たちのカリキュラムに沿って学べるのですが、それ以外はインドネシアの学習要綱に従うことになります。 その時はちょうどコロナ禍の真っ只中でした。観光業で成り立っているバリ島はかなり大きな影響を受け、私も含めほとんどの人が、いかにして食べていくか、生き抜くことに必死になっていた時期でもありました。そのような状況下で私は「どんな世の中でも生きていける子どもを育てていかなければ！」とより強く思い、国の定められた教育を行う学校ではなく「理想の学校」をつくることを決めました。 インドネシアのカリキュラム以外に、先ほど挙げたケンブリッジやIBなどのカリキュラムも同時に学ぶシステムを取り入れている学校、『ナショナルプラス校』です。ところが…私は『認可外』とは日本語でいうところの『認可の外』だと解釈して、それこそ自由になんでもやっていけそうな感じを想像していました。 が、実際は一部を除き、インドネシアの教育省に従わなければならないということが分かってきました。基本的に、『ナショナルプラス校』では、ナショナルカリキュラム（インドネシアのカリキュラム）とインターナショナルカリキュラムのダブルカリキュラムで学びを進めて行かなければならないのです。同じ算数でも、インドネシア語で授業を受ける『Matematika』と、英語で授業が行われるケンブリッジカリキュラムの『Math』の両方を受けることになります。 それが国語、理科も同様にあり、言ってみれば、受講科目が2倍になるというようなイメージです。この『ダブルカリキュラム』の詳細について、改めて知ったときは驚愕しました。

小学生なのに、彼らのスケジュールは科目学習でいっぱいいっぱいです。 私の学校でも英語を使っていますし、ダブル国籍の子どもたちも多いのでナショナルカリキュラムはそんなに取り入れない予定だったのですが、インドネシアでは修了テストをインドネシア語できちんと受けて合格しないと、義務教育の小学校でも落第し、終了証明をもらえません。インドネシア国籍を保有している子どもにとって、自国の教育課程修了書がないということは結構深刻なこと。 結果的に、彼らは暗記中心型のインドネシアの教科も受講しなければならず、本来学校に取り入れたかった、非認知能力を伸ばすことを目的にした活動などを行う時間が限られてしまって、ジレンマを感じることが多々あります。

日本では受験中心型の教育のあり方が問題になったりしていますが、ここバリ島でもほとんどの親御さんは大学進学を見据えて考えていて、それを基準に学校を選んでいるようです。大学に行くことが正解ではないし、行くにしてもいろいろな進学のタイミングや方法もあると思うのですが、親としてより安全で確実なわかりやすい提案をしている学校に子どもを入れたいでしょうから、そういう学校はやはり人気があります。 私も理想の学校づくりをしながら、そういった現実や事情に触れることも多いので、自分の子どももそういう学校に入れたらどんなに楽だろうな、と思うこともよくあります。いまでもどういった学校が結局は『理想の学校』なのかは正解を見つけることはできずにいますが、ひとりの親としてだけでなく、私の学校に通う子どもたちが、自分に合った道に進める選択肢を持てるように、サポートしていける親、学校でありたいと思っています。

2025年1月のテーマ「子どもの教育への不安」

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