<h4>栗尾モカ</h4>横浜で生まれ育つ。美大卒業後、若い時期にたくさん旅行をしたいと思い、航空会社に入社。国際線に乗務する。その後、講談社の雑誌編集部で多くの企画を担当。「ダ・ヴィンチ」でコミックエッセイデビュー後、朝日新聞等で取材・イラストの連載をスタート。

残暑厳しい日々が続いておりますが、みなさまお元気でお過ごしでしょうか。 8月のグローバルレポートのテーマは「食」 食べるものって、日本国内でさえ、地方によって違いますよね。食には地域性が顕著に現れます。お正月のお雑煮などは良い例です。 世界に目を移すとさらに、食習慣を通して、気候風土、地理や歴史、文化の理解にも繋がります。グローバルレポートのMeet-Upでも、食にまつわる話を始めると、ネタはつきず、「え～！そうなの？！」「へええ～」と大いに盛り上がりました。今回はそんな「食」を切り口にそれぞれの生活に根ざした「食」に関するレポートです。 食べるものだけでなく、その時間や場所をどう捉えるか。そんなことを考えるきっかけになるかもしれません。

私たちが生活するシンガポールは、中華街、インド人街、マレー人街などがあるように、多民族が暮らしており、あちこちにホーカーセンターや食べもののお店が溢れているので、それぞれ特徴ある料理を気軽に楽しめます。 中でも私はスパイス料理に魅せられ、こちらに住み始めてからずっとインド料理を習っていますが、インド人の先生から直接習う料理は驚きや発見の連続で、いつも興奮しています（笑）。シンガポールでは共稼ぎが一般的で、女性の給与も男性同様高額になっており、女性＝家事をする、という習慣はありません。 多くの家庭では、働いた後は外食をするか、お店でテイクアウト、もしくは種類豊富なデリバリーを利用するケースが多いです。そんな中、私もシンガポールのいろいろなお店で未知の食の体験をすることが一番の楽しみになっています。修行中のインド料理の世界は森のように深いですが、もうひとつの楽しみはアフタヌーン ティです。

<h2>シンガポールの午後の楽しみ。それは・・・アフタヌーン ティ！ &nbsp;</h2>

シンガポールはイギリスの植民地時代の影響でイギリスの文化を感じることがあります。そのひとつとして挙げられるのがアフタヌーン ティです。 日本でも最近アフタヌーン ティの人気が高まっているそうですが、シンガポールでもバラエティに富んだアフタヌーン ティのメニューをホテルやレストランで楽しむことができます。シンガポール人の間でも、また旅行者の間でもホテルやレストランで午後にいただくお茶とスイーツは人気です。シンガポールには沢山のホテルがあります。ラッフルズ、リージェント、シャングリラ、マンダリン・オリエンタル、グッドウッドパーク、そしてマリーナベイ・サンズなどなど・・・。それぞれのホテルのカラーがアフタヌーン ティのセッティングに反映されています。

この日は、フラトン・ホテルの英国式アフタヌーン ティに行きました。このホテルの建つマリーナ・ベイは、港湾貿易がスタートした際の玄関口です。 ホテルのエントランスを抜けると大理石のダイナミックな階段があり、吹き抜けの空間が広がっています。 英国式のアフタヌーン ティの定番、胡瓜のサンドイッチ。 「どうしてキュウリなの？私も育ててたよね。ヘチマみたいに巨大化したけれど…」と不思議そうな娘。 「キュウリは19世紀のイギリスでは希少な野菜だったらしく、貴族の間でも好まれていたそうだよ」と私。「ママはダイエット中だから甘いものは食べないでしょう。私は甘いもの、甘くないもの両方が好きよ」という娘。「そうね。甘くないものだけにしておく（笑）。セイボリーって呼ぶみたいよ」

<h2>紅茶とスコーンの香りが娘にとってシンガポールの美しい記憶になりますように</h2>シンガポールでは、子どもも襟付きの服を着て親とアフタヌーン ティを楽しむ姿をときどき見ます。 我が家でも娘と一緒に行くお出かけは「ちょっと緊張する場所」を意図的に選ぶようにしていますが、それには理由があります。 子どもの頃に緊張しながら行った場所は、大人になっても背伸びをした冒険の記憶として刻まれるからです。 私自身、子どもの頃に「すごい！」と思った建築や自然、美味しい食べものの記憶は、細かいところまではっきりと覚えていて、今の自分のベースになっていると思います。そんな理由から、娘の記憶の引き出しにも伝統のある場所や、美しいものに触れた記憶を沢山残してあげたいと思っています。

娘は、ホテルに着くと「あぁ、いい香り」と言います。ホテルは使っているフレグランスがそれぞれ違いますが、どのホテルもロビーに入った瞬間から良い香りがします。嗅覚と脳はしっかりと繋がっているので、良い香りを感じたときに過去の記憶が蘇る・・・そんな経験をしている人も多いのではないでしょうか。 アフタヌーン ティで感じたいろいろなことが、娘の記憶のどこかに残ってくれると良いなと思っています。もう少し成長したら、友人や彼氏とお出かけするようになるのでしょう。そう思うと少し寂しくもありますが、「ママ、アフタヌーン ティに行くときには私を連れて行ってね」そう言ってくれる間は、いろいろな場所でお茶の時間を一緒に過ごしていきたいと思っています。

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