<h4>栗尾モカ</h4>横浜で生まれ育つ。美大卒業後、若い時期にたくさん旅行をしたいと思い、航空会社に入社。国際線に乗務する。その後、講談社の雑誌編集部で多くの企画を担当。「ダ・ヴィンチ」でコミックエッセイデビュー後、朝日新聞等で取材・イラストの連載をスタート。

11月のテーマは「お祭り」。一言でお祭りといってもいろいろありますが、国ごとの伝統行事的な祭事や行事を紹介していただきました。日本では夏の盆踊りや秋のお神輿など、神社仏閣を中心に各地で一年中お祭りが開かれていますよね。季節の祭事では3月の桃の節句、5月の子どもの節句、夏のお盆、秋の七五三など、いずれも疫病退散や、五穀豊穣、子どもの健康を願ったり、死者の霊を弔ったり、祈りと感謝をささげる意味があります。さて、海外ではどうでしょうか。レポートしてもらいました。

シンガポールは60以上の小さな島々で構成された島国です。広さは東京23区と同じくらいの面積です。中華系、マレー系、インド系など複数の民族、文化、宗教的背景で構成されているので、1年中、さまざまな宗教のお祭りがあります。今回モカさんが紹介してくれるお祭り「タイプーサム」、ちょっと痛そうですがシンガポールでは有名なお祭りだそうです。<h2>シンガポールの奇祭「タイプーサム」は街全体で修行する人を見守る祭り</h2>体中に針を刺して担ぐ装飾（カバディ）をつけたまま、街をねり歩くインドのタミル系の奇祭『タイプーサム』。 コロナ前の2019年に取材をしたときの写真と共に当時の様子をお伝えします。『タイプーサム』はヒンドゥー教徒の伝統的なお祭りです。「タイ」はタミル暦で満月、「プーサム」はこの時期に一番高く輝く星のこと。このお祭りは、ヒンドゥー教の教えである「禁欲主義」と「自己の感性を研ぎ澄ます」ことが目的で、敬虔（けいけん）な信仰心を示す行事だそうです。この『タイプーサム』は、ヒンドゥー教の総本山であるインドでは危険を伴うとされ、禁止されているとのこと。シンガポールとマレーシアだけで行うことが認められているだけに、このお祭りにははるばる海外からもカメラマンやジャーナリストがやってきます。

<h2>針を体に刺してカバディを背負い、炎天下の下を行進するパレード</h2>お祭りの目玉は、タミル語で「重責のダンス」と言う意味の、Kavadi Attamと呼ばれる行進。主に男性が、花や仏像のオブジェ、クジャクの羽などで飾られた大きくて重い金属の装飾（カバディ）につながった槍を、体、舌、頬にたくさん突き刺し、その苦行を通して神への忠誠を示しながら決められたルートを練り歩くというもの。

針を体に刺した状態でカバディを背負い、炎天下の下を行進するパレードは過酷です。中には家族が後ろからサポートするように付き添っている人も多く、行進の途中で椅子を差し出し、座って休息をとったり水分補給の手伝いをしたりしています。歩道では多くの地元の人や観光客が見守っています。

<h2>寺院で行われるピアッシングは修行僧の神聖な儀式</h2>このお祭りでは、シンガポールのリトルインディアにある「Sri Srivasa Perumal Temple」から、リバーバレー沿いの「Sri Thendayuthapni Temple」まで約4キロを行進します。Sri Srivasa Perumal Templeでは、楽団が演奏し、お香が焚かれる中でカバディを背負う前の修行者たちのピアッシングが行われています。 ピアッシングは家族や友人に見守られながら専門家によって行われ、パレードへの準備を整えるのです。私は3回このお祭りを見ましたが、このピアスのときに血が全く出ていないのが不思議です。間近で見ているととても痛そうですが、修行者の人たちは慣れているのか落ち着いた様子で施術を受け、カバディを背負い、パレードの流れに次々と参加していきます。修行者が女性の場合は、重いミルクを頭の上に乗せて運びます。最終地点のSri Thendayuthapani Templeでは、入り口付近でお供えするための牛乳を無料で配っており、異教徒の見物人も寺院に入ることができます。

全身に針を刺した状態で苦行を行う宗教儀式は見る側にもインパクトを与えますが、治安が良いシンガポールで行われるパレードは厳粛な雰囲気の中で行われるため、観光客も安心して見学ができます。パレードは19時頃まで続いていました。パレードに参加している人々の目的は、最初にお伝えしたように「禁欲主義」と「自己の感性を研ぎ澄ます」こと。こんなに大変な苦行をしてまで自分と対峙する姿勢を見守る家族や街の人々も真剣で、敬虔な儀式だということを実感するお祭りです。

2022年11月のテーマ「各国のお祭り事情」

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