<h4>栗尾モカ</h4>横浜で生まれ育つ。美大卒業後、若い時期にたくさん旅行をしたいと思い、航空会社に入社。国際線に乗務する。その後、講談社の雑誌編集部で多くの企画を担当。「ダ・ヴィンチ」でコミックエッセイデビュー後、朝日新聞等で取材・イラストの連載をスタート。

12月のテーマは「世界の本と読書事情」。 今年も残すところあと1ヶ月。仕事に家事、何かと気忙しい年末ですが、年末年始は家族の時間でもあります。 お子さまと本を読む時間をつくってみてはいかがでしょうか。 海外在住Soda!ファミリーレポーターのみなさんには、下は5歳から上は大学生まで、幅広い年齢のお子さまがいらっしゃいます。 各国で子育て中のみなさんに、お子さまが好きだった本や、おすすめの本を紹介してもらいました。 英語の勉強に役立つ本もありますよ。ぜひ参考にしてみてください。

シンガポール在住記者の栗尾モカです。今回のテーマは、絵本。絵本の世界は広くて深い海のようで、一生かけて世界のいろいろな絵本を読んでみたい。そんな気持ちで書店や図書館に足を運んでいます。 そんな私のおすすめの絵本を2冊ご紹介します。<h2> 絵を描くことの楽しさを教えてくれた叔母の挿絵が美しい「貝の子プチキュー」</h2>1冊目は「貝の子プチキュー」です。この絵本は、子どもにとっても大人にとっても、深く心に残る素晴らしい作品です。 まず、表紙の神秘的な海の世界に惹き込まれてしまいました。あまりにも美しい装丁なので、この絵本を部屋に飾っています。

ページをめくるたびに、ハッとするような世界が広がります。

プチキューは小さな小さな貝の子どもでした。 いつもひとりぼっち。さみしくなるとエンエンエンと泣きます。 ある日、一度も行ったことのないところへ歩いてみようと、したべろみたいな足をふみだしました。水面に出ると、大空はもう降るような星月夜でした。「歩いてきて良かった」と、プチキューはしみじみ幸せでした…。詩人、茨木のり子さんが生涯に書かれた唯一の絵本で、画家の山内ふじ江さんが渾身の力をふりしぼった最高に美しい絵本。息が止まるほど美しく、深く静かな世界。そこにみずみずしく澄みきったいくつもの魂が宿っている。こんな絵本に出逢えることはなかなかありません。命について考えさせられる作品です。絵を描いた山内ふじ江さんは、実は私の叔母なのですが、茨木のり子さんの作品の絵を担当することになったとき「本物の海の中を見なくては」と、いままで潜ったことがなかった海に勇気を出して初めて潜った日のことを話してくれました。子どものころ、叔母がよく「一緒に絵を描こう」と誘ってくれて、お花やお互いの顔を写生したりしました。「よーく見て描くのよ」と、いつも教えてくれました。また、ある日には「あなたは何に興味があるの？」と訊いてくれたこともありました。 「えっと、植物が好き」と答えると「たくさんの本物の植物を見るようにしてね。植物が好きなら、植物についてとことん調べてみよう。興味のあるものが見つかったら、必ず自分の目で確かめに行きなさい」と言ってくれました。対象物をよく観察して自分なりに表現することや、絵を描くことの楽しさを伝えてくれたのが叔母でした。<h2> 海外の絵本をたくさん読んでみたいと思うきっかけになった本「ピーターのいす」</h2>2冊目は「ピーターのいす」です。こちらは、子どものころに母親が読み聞かせてくれた思い出の絵本です。 それから35年が経過し、娘が生まれてからも取り寄せました。

昨年、シンガポールの公文教室にある図書コーナーで絵本を見ていたら「ピーターのいす」が推薦図書に選ばれていました。不朽の名作です。主人公は、ピーター。妹が生まれ、いままで自分が愛用していたパープルのいすが、パパの手によりピンク色に塗られてしまいます。なんだか寂しくなってしまうピーター。家族が増えたときに感じる、万国共通の気持ちですね。

でも、ピーターは「お兄さん」として立派に成長していきます。 温かい気持ちになれる本です。 ふたり目のお子さんが生まれた友人に、この絵本をプレゼントしたこともあります。「ピーターのいす」の絵の色彩は全体的に少しスモーキーで、グレーを混ぜたような中間色の色味がとてもやさしく、子ども心にもその柔和な配色を「ほっとする色だな」と思ったものです。このおしゃれな色味が何十年も記憶に染み渡り、いまに至っています。この本の翻訳は、詩人で英米文学者の木島始氏によるものです。 木島さんは私の叔父で、生前は黒人文学やジャズ評論の翻訳を多く手がけていました。「海外の絵本をたくさん読んでみたい」と思うきっかけになったのは「ピーターのいす」との出逢いです。いろいろな国の絵本を見ていると、それぞれの国の文化が詰まっていることに気づきます。「大切にされていること」「子どもに伝えたいこと」を感じとることができます。 海外のいろいろな絵本を通して、親子で世界旅行を楽しむのも良いですね！

2023年12月のテーマ「世界の本と読書事情」

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