教育のアレコレ

中曽根 陽子（なかそね・ようこ） 教育ジャーナリスト マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを活かして取材・編集を行う、編集企画会社を発足、代表に。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。その後、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。ポジティブ心理学コンサルタントも取得し、最近は子育て教育探究ナビゲーターとして、親に寄り添った発信をしている。最新刊『成功する子は「やりたいこと」を見つけている　子どもの探究力の育て方』（青春出版社）他著書多数。

教育ジャーナリスト 中曽根 陽子<h2>明治以来の学校教育大改革進行中！</h2>　今、日本の学校教育は、大きく変わろうとしています。 いったいどのように変わろうとしているのでしょう。 そのキーワードは「探究」です。　高校では2022年から、その名も「古典探究」や「地理探究」というように、「探究」のついた科目が新設されます。それに先駆けて、小中学校でもすでに、「探究型学習」がとり入れられるようになってきています。　学校で行われる探究型学習は、正解を暗記する勉強法ではなく、「自ら問いを立てて、課題を解決するために情報を集め、皆で意見を出し合い、解決へと導く能力を育んでいく学習」を指します。 　 　学校の授業も、少しずつですが、先生が、板書しながら一方的に教えて、生徒は黙って先生の話を聞いてノートをとるというスタイルから、現場に出て調べたり、グループをつくって話し合いながら導き出した答えを発表するというようなスタイルがとり入れられるようになってきています。　これをアクティブラーニングと言います。

<h2>人間はAIに仕事を取られちゃうの！？</h2>　ではなぜ今、こんなに「探究」がキーワードになっているのでしょうか。　それは、私たちが生きている社会がものすごい勢いで変化しているからです。　数年前に、「AI（人工知能）の進化で今後10年から20年で、今ある仕事の半分が自動化されて無くなってしまう」とか、「子どものたちの65%(3人に2人)が、今は存在しない職業に就く可能性が高い」という論文が発表され、人間はAIに仕事を奪われると大騒ぎになりました。 　 　実際、アメリカの大手証券会社ゴールドマン・サックスでは、600人いたトレーダーが2人になっています。代わりに採用されたのは、SE（システムエンジニア）とAI。金融トレーダーといえば、豊富な知識と判断力を持つ、高給取りのエリートビジネスマンの象徴でしたからびっくりですね。　実は、高度な情報処理作業を伴う仕事ほど、まっさきにAIに取って替わられるのです。　しかし、これまで学校で行われてきたのは、このAIにとって替わられるような人間を育成する教育でした。　 　どういうことでしょう・・・。 　これまでの教育は、教科書に書かれている正しいとされる知識を覚えて、テストでそれを間違いないように再現できるかに偏りがち。 　答えが一つではない問題に対して、「なぜ？」と繰り返し問いながら、異なる意見を持つ人と対話しながら、自分なりの答えを導き出す訓練をする機会は、ほとんどありませんでした。　もちろん、全国どこでも一定のレベルの教育が受けられる日本の教育は世界でも高く評価されていて、すばらしい面もたくさんあります。 　しかし、変化のスピードが加速している今、4年に1回しか改定されない教科書の内容は、すでに古い内容になっている可能性が高いですし、知識だけなら検索すればいくらでもでてきます。 　これからは、そこにある情報が本当に正しいかを見極めた上で、それらを活用して、自分の考えを持ち、それを人とシェアしながら納得できる解を導きだすことが求められます。

<h2>人生100年時代　社会に出た後も学び続ける力が必要</h2>　テクノロジーの進化や社会の変化に応じて、仕事の内容や、やり方も大きく変わってきていて、社会にでた後も、仕事をしながら、常に学び続けなければ時代の変化についてくことはできません。　一方、社会に出てくるワカモノ達はというと、「まじめで人から言われた事はできるけれど、失敗や目立つことを避ける」とか、「優秀な大学を出ていても、自分で考えて行動できなくて困る」とか言われてしまうことが多い。　でも、考えてみてください。そのワカモノ達が悪いわけではないですよね。 　だって、これまで、自分は、本当は何をしたいのかを考える機会も充分に与えられないまま、目の前の受験を突破する勉強に追われてきたし、正解が決まってない問いについて、意見を出し合いながら考えるなんていう練習もしないまま、大人になってしまったのですから。　でも、それでは変化の激しい時代を生き抜いていくことはできません。そんな社会の変化と学校教育のギャップを解消するために、2000年代にはいってから「教育を変えよう」、という動きが起きてきて、ようやく日本の教育も変わろうとしていて、「探究」がクローズアップされているという訳です。

<h2>探究型学習に取り組む生徒ほど学力があがる！？</h2>　2020年から施行された日本の学習指導要領では、学校で学んだことを社会に出てからも活かるように、次の図のように、知識・技能、思考力・判断力・表現力、そして学びに向かう力・人間性を学力の3要素として、学校で育成することを目指しています。

学校によってさまざまなアプローチがありますが、例えば「新商品やサービスを作ろう」とか「地域の活性化について考えよう」といったさまざまなテーマについて考えたり、数学で、教科書に出てこない解法を自分で考えるというような、教科学習の内容を深めていく取り組みをしている学校もあります。 　実は、探究的な学習を行っている生徒ほど、国語や数学など各教科の正答率が高いというデータもあります。

それは、やらされる勉強ではなく、自分が疑問に思ったことや、関心のあることについて、主体的に調べたり深めたりしていくので、勉強が苦にならないからでしょう。

<h2>世界の教育も変わってきている　その目的はウェルビーイング</h2>　教育を変えようという動きは、日本だけでなく、世界中で始まっています。　OECD（経済協力開発機構）※1が2030年のあるべき学びの姿を示した「学びの羅針盤、ラーニング・コンパス」というものがあります。 　これには何のために学ぶのかという目的が示されています。それが、なんと「ウェルビーイング」なのです。

「ウェルビーイング」というのは、身体的・精神的・社会的に健全な状態を示している言葉で、「幸せ」と言い換えてもいいでしょう。 　この羅針盤では、自分が幸せに生きるために学ぶと同時に、環境問題、貧困や格差、戦争など、地球上のあらゆる課題を解決できる力を身に着けていくために、学ぶのだと言っているのです。　探究型学習へのシフトは世界的な潮流で、世界的な学力調査として有名なOECDのPISA調査※2で1位2位を争っているシンガポールや上海の学校でも、日本以上に積極的に探究的な学習を採り入れていることからも、「探究」が21世紀の学校教育の中心になることは間違いありません。

【まとめ】 ●社会の変化と学校教育のギャップを解消するために、今教育改革が行われようとしていて、「探究」がクローズアップされている。 ●子どもたちが社会に出たとき、どんな変化にも柔軟に対応し、活躍できるような資質・能力を育成することが探究学習のねらい。 ●学習指導要領では、「実際の社会や生活で生きる知識や技能」「思考力・判断力・表現力」、「学びに向かう姿勢」を育成することを目指している。 ●教育改革は世界的な流れ。探究は、自分の幸せ・社会の幸せ・地球の幸せを実現する力を身につけることにもつながる。

*本記事は、『成功する子はやりたいことを見つけている 子どもの「探究力」の育て方』（青春出版社）の内容に加筆修正を加えて構成しています。用語の解説 ※1　OECD（経済協力開発機構）はヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関。 ※2　OECDが進めている国際的な学習到達度に関する調査のこと。Programme for International Student Assessmentの頭文字を取ってPISAと呼ばれる。PISA調査では15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに本調査を実施している。

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