教育のアレコレ

<h2>松本 友理</h2>2007年に大学卒業後、トヨタ自動車に入社。本社にてプロダクトマネージャーとして、カローラなどのグローバル戦略車の商品企画や、コーポレート価格戦略を担当。ものづくりには、人びとの暮らしをよりよく変える力があることを実感する。 2016年、長男を出産。脳性まひによる運動機能障がいがあることが判明し、トヨタ自動車を退職。息子のケアとリハビリに専念する中で、「障がい者は保護されるべき存在である」という前提の元に成り立つ社会福祉制度や、障がい児とその家族を取り巻く環境に課題を感じ、起業を決意。2020年に株式会社Haluを創業。

ライター<h2>みっちー</h2>英国スコットランド在住。大阪生まれ、神戸育ち。大学在学中に北米へ留学。 英語とフランス語を学び、卒業後は関西の商社へ就職。結婚を機に英国スコットランドへ移住し、日本語教師として働くと同時に、現地大学の日本語クラスで授業アシスタントを経験。出産後、ウェブライターへ転身。妊娠・出産・育児情報サイトのコンテンツや、海外絵本の紹介記事、ブログの執筆や翻訳業務など、子育てや語学に関する分野のライティングで実績を積む。Soda! Soda! の『グローバルレポート』にて英国スコットランドのリアルな子育て・教育事情も発信中。&nbsp;

前編は<a href="https://www.seiban-sodasoda.com/episodes/detail/kyoiku-no-arekore-230424/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">こちら</a> 息子さんの障がいがきっかけで感じた自分の中にあった無意識かつ無自覚な壁。そして保育園生活を通してその壁は人々の意識によって乗り越えることができることを知った友理さん。 そんな友理さんは、違いを認め合って分け隔てなく一緒に過ごすことのできる社会の実現を目指して、乳幼児向けのインクルーシブ・ブランドIKOU を自ら立ち上げました。 後半では、デザインの観点からみたインクルーシブ・ユニバーサル・バリアフリーについて、友理さんの視点で解説します。さらに今回のライターみっちーさんが暮らすスコットランドの、みんなに優しい街づくりの写真をご紹介します。

<h2>障壁（バリア）となるものを除去（フリー）する『バリアフリー』</h2> 「みんなが生きやすい社会になったらいいな」と思っている人は多いと思います。その一つがインクルーシブな社会という考え方。一方で「線引きのない社会」と「バリアフリー社会」を結びつける人は多いのではないかと思います。ポータブルチェアの開発過程を通して、友理さんたちは『インクルーシブデザイン』『ユニバーサルデザイン』『バリアフリー』の違いは何だろうと、意見交換を重ねてきたそうです。さて、この写真は「ボタンエイド」や「靴下エイド」など障がい者や高齢者が使う「自助具」。 この自助具は、動作の困難な方でも自分で靴下が履けたり、ボタンを留めることが可能になるお役立ちアイテムです。

友理さんによると、バリアフリーは　高齢者・障がい者などが生活していく上で障壁（バリア）となるものを除去（フリー）する考え方。物理的、社会的、心理的、情報面などあらゆる障壁が対象になります。 プロダクトにおいては、既存の商品で障がい者や高齢者には使いにくいものを、工夫して使えるようにするという発想。なので、このような自助具は『バリアフリー』のカテゴリーになると考えられます。<h2> みんなが使える『ユニバーサルデザイン』と『インクルーシブデザイン』</h2>一方、はじめから障壁をつくらずに、みんなが使いやすいものを目指すのが『ユニバーサルデザイン』や『インクルーシブデザイン』です。では、ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインの違いは何なのでしょうか。共に、「多様なニーズを持つ人も含め、みんなにとって使いやすいもの」を目指すことは同じですが、アプローチやプロセスが異なります。ー『ユニバーサルデザイン』は、 健常者・障がい者・高齢者などを含めた「全ての人」に向けたデザイン。ー『インクルーシブデザイン』は、 これまで見過ごされがちだった障がい者・高齢者など「誰かひとり」の困りごとを解決することを起点に生み出されるデザイン。さらに、その当事者と共にデザインするというプロセスも特徴です。<h2> 例えば『みんなが使える絆創膏をつくる』場合</h2>ー『ユニバーサルデザイン』&nbsp; →　透明な絆創膏 ー『インクルーシブデザイン』 →　それぞれの肌(の色)に合った絆創膏というソリューションが考えられます。 「困っている人たちのニーズを解決しようとするとき、こうした複数のアプローチがあることを知っておいて、場合に応じて適切に活用していく考え方ができるといいですね」と友理さん。人々の意識を変えていくためには教育も連動させていく必要があると自身の子育てを通して実感した友理さん。親子を対象にインクルーシブデザインについて知るきっかけをつくるワークショップも積極的に実施しているそうです。<h2> スコットランドではあたりまえのインクルーシブ思考</h2>私が住むイギリス・スコットランドでは、生活していると多種多様な「違い」に対応するサービスや商品、環境がたくさん見られます。 今回の取材が決まったとき、ぜひそのことを伝えたくて写真を用意しました。例えば化粧品のファンデーション。肌の色の違いに合わせて、たくさんの色が用意されています。

<h2>スーパーの前には、ニーズに合わせたカートがずらり。</h2>

写真を見た友理さんは「これ、すごく欲しいです！」 「この前、保育園帰りにスーパーに行きたかったけど、車椅子を持たずに出たのでスーパーに寄るの諦めたんです。こんなカートがあったら、それも諦めなくて済むのに！」と興奮気味に、かつ真剣に写真を見つめながら、海外ではこれが標準なんですね～としみじみ。 &nbsp;<h2>分けることの優しさ『静かなお買い物時間』とは</h2>モノを用意する以外に、こんな取り組みがあります。イギリスで全国展開している大手スーパー2社では、週に1回、1時間の「静かなお買い物時間」が設けられています。 この時間は照明を絞り、音楽や電子音をなくすことによって光や音の刺激に敏感な自閉症の方も快適にお買い物ができるように配慮されているのです。もちろん普通の人も一緒にお買い物ができます。

「分け隔てないことに注目していたけれど、ときに分けることでみんなが利用できるようになることもあるのかもしれません。あえて分けることで違いを受け入れ合うことに繋がる可能性もあるのかもしれないですね」と友理さん。&nbsp;<h2>町中に溢れる優しいバリアフリー設備</h2>スコットランドでは、バリアフリーも充実しています。 町の市民プールはバリアフリー設計でプール用の車椅子まで用意されていますし、更衣室は男女共用！利用者はみんな更衣室内にある個室で着替えます。こうすることで障がい者も高齢者も、その同伴者が異性でもプールの利用が可能に。ベビーカーや車椅子が入れる広い個室も完備されています。

スコットランドを含めたイギリス社会は、障がいだけに限らず、人種や持病の有無、生活習慣、宗教の違いなど、いろいろな人が混ざりあっていてみんな違って当たり前な社会が自然な形で成り立っているように感じます。<h2> 障がいのあるなしに関わらず『同じ空間で共に学べる』ためのサポートが充実したスコットランドの学校環境</h2>そんな環境は教育現場にも見られます。スコットランドにも通常の学校と特別支援学校が存在しますが、障がいがあっても通常校に通っている子がたくさんいます。 私の子どもが通う現地校には人種、運動機能障がい、学習機能障がい、宗教、生活習慣など様々な違いを持つ子どもたちが同じ空間で一緒に学んでいます。そこには「特別支援学級」のような分け隔てられたクラスも存在しません。&nbsp;

教育現場では、エレベーターや多目的トイレ、視覚障がい者用の拡大読書器、車椅子用に高さ調節のできる机など各ニーズに合わせたサポートアイテムから、サポートスタッフなどの人員面まで、必要とする子どもに合わせて整えられています。学習障がいのある生徒さんには、授業中も常についてくれるサポートスタッフがいます。 &nbsp;

個人的には「必要なサポートは何か。どんなサポートがあれば、同じ空間で学ぶことができるのか。それをどう用意し、整えるか」という視点で教育現場がデザインされているように感じています。そんな環境で育つせいか、子どもたちの「違い」に対する理解度も高めです。 自分との違いに驚いたとしても「そうなんだ～」と何の偏見も抵抗もなく受け入れられる子どもを見て、「私が子どものころは、こんなにも柔軟に物事を受け入れられていなかったなあ」と感じています・・・。<h2> 「みんなここにいて当たり前」な社会の実現に大切な3つのもの</h2>

取材を通して、インクルーシブな社会の実現には3つの大切な要素が必要だと気がつきました。1つ目は人々の意識。 2つ目はサービスやもの。 3つ目は社会。人々が違いに対して違和感を持って拒絶するのではなく、受け入れられるようになることも大切。そして商業施設や教育現場がバリアフリーになったり、いろんな人がアクセスしやすくなるようなアイテムやサービスを整えることも必要不可欠。 同時に、そういった場所をみんなが利用することによって多くの人が多様な違いに見慣れることも大切だと感じます。そして誰がどこへ行っても「よく来たね。さあ入って、入って」と歓迎されるような社会こそがインクルーシブ社会なのではないでしょうか。最後に友理さんの言葉をご紹介します。「息子が大人になるころには街を歩いたとき、その情景の中に当たり前のように障がい者も含めいろんなニーズを持つ人がいるのが理想です。気を使われるでも特別扱いされるでもなく、みんなここにいて当たり前だよね、という日本社会になっていって欲しいし、私自身もその実現のためにチャレンジを続けていきたいです」 目には見えない人々の意識が、目に見える社会を変えていくための大きな力になっていくのではないでしょうか。そのために、いまこそ私たち一人ひとりもインクルーシブ思考にマインドを変えていきたいですね。 &nbsp;

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