教育のアレコレ

<h2>成田奈緒子（なりた なおこ）</h2>小児科医、医学博士。神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協大学医科大学、筑波大学基礎医学系で、分子生物学・発症学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より発達障害、不登校、引きこもりなど、さまざまな不安や悩みを抱える親子・当事者の支援事業<a href="https://www.kk-axis.org/staff/#narita" target="_blank" rel="noopener noreferrer">「子育て科学アクシス」主宰</a>。これまで35年以上に渡り相談に乗ってきた家族は2000組（延べ1万人以上）を超える。「『発達障害』と間違われる子どもたち」（青春出版社）など著書多数。 成田奈緒子WEBサイト<a href="http://kosodatekagaku.com/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">「子育て科学」</a>

<h2>中曽根 陽子（なかそね ようこ）</h2>教育ジャーナリスト マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを活かして取材・編集を行う、編集企画会社を発足、代表に。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。その後、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。ポジティブ心理学コンサルタントも取得し、子育て教育探究ナビゲーターとして、親に寄り添った発信をしている。本サイトでは「<a href="https://www.seiban-sodasoda.com/contents/yokosensei/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">教えてヨーコ先生</a>」を担当。「成功する子は『やりたいこと』を見つけている　子どもの探究力の育て方」（青春出版社）他著書多数。

発達障害の子どもが増えているといわれています。 実際、それを示すデータもあります。「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」によると、通常学級に在籍する小中学生のうち、「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた小中学生の推定値は、この10年で6.5％から8.8％と増えているのです。本当に発達障害と診断される子どもが増えているのでしょうか？ 教育ジャーナリスト中曽根陽子さんに、発達障害の子どもたちを多く見ている発達脳科学者で小児科医の成田奈緒子先生に背景や現状について聞いていただきました。 &nbsp;<h2>発達障害の子どもが増えていると言われる背景</h2>中曽根： 発達障害が疑われる子どもたちが増えているということですが。 成田： 学校現場で困難さがあると教員が思う子どもたちの数は明らかに増えています。ただ、この数字は、発達障害を診断できる専門家が行ったものではありません。そもそも、「疑われる」というのと、「本当に診断がつく」というのは、別物です。いわゆる発達障害に入るADHDやASDは、数値的に客観的に判断できるものではなく、基本的には、周りの支援者や大人たちの主観的な判断で診断されることが多い疾患なので、どうしても、関わっている人が、大変だと感じる気持ちに依存するところがあり、この調査の数を押し上げているからです。<h2> 2004年「発達障害者支援法」施行の影響</h2>成田： ひとつには、2004年に「発達障害者支援法」という法律が施行され、教育現場に発達障害という概念が入ってきて、学校現場の先生たちが発達障害についてトレーニングされるようになったという背景があるかと思います。さらに、メディアでも多く取り上げられるようになり、保護者の方たちのあいだにも知識が入ってきて、「うちの子はそうなんじゃないか」と疑う人や、「診断をつけたい」と思う人が増えてきた。そんな感じでしょうか。今までなら知識がなかったので「ちょっと困った子」で終わっていたことが、発達障害ではないかと疑われるようになったということですね。世界的にも、ADHDやASDと診断される子どもの数は増えてはいるのですが、10年で6.5％から8.8％へという日本の数字は、明らかに多すぎです。発達障害の研究はアメリカの方が先行していて、実は今「こんなに多いはずはないよね」ということで見直しがかかっています。 例えば、早生まれの子がADHDと誤診されやすいとか、家庭環境でずいぶん変わるものなので、安易に診断するのはいかがなものかというのが、今世界の発達障害児研究の潮流です。なので、日本もいずれはそのようになっていくのではないでしょうか。&nbsp;

<h2>発達障害と疑われる子どもたち</h2>中曽根： たくさんのお子さんを診てこられた中で、明らかにこれは発達障害で治療が必要であるというお子さんと、「元気なお子さんですね」で終わるお子さんの大きな違いはどこにあるのでしょうか？成田： 発達障害を診断する際に、最初に見るのは生育歴、もう一つが生活リズムです。 診断がつく発達障害のお子さんの場合は、生まれてから病院に来るまでの間に、必ず正常な発達順番を辿らなかった既往があります。なので、正常の発達を辿っているかどうかと、正しい生活リズムがちゃんと取れているかどうかは、必ず診ます。生育歴に大きな問題が出てこないというお子さんに関してまず手をつけるのが、生活リズムを整える指導です。正確には生活リズムだけではなく、私どもの場合は同時に親御さんの関わり方とかもお話ししますが、基本的には、生活を改善していただくところに主眼を置いています。そして、しばらく生活リズムを見直しながら暮らしていただいて、評価がどれだけ変わってくるか、お子さんの状態がどれだけ変わって来るかを見ます。もし、それだけで改善するようであれば、発達障害という診断はつけにくいということになります。現実に、学校から発達障害では？と疑われて相談に来られる事例の中には、医学的には発達障害の診断がつかない例も数多く含まれます。私はそのような例を「発達障害もどき」と呼んでいます。それは、大まかにお伝えすると、「発達障害の診断がつかないのに、発達障害と見分けのつかない症状を示している状態」を指します。 これは、私がつくった言葉で、言動に発達障害と同じような症候があって、本人もとても困っているし、親も悩んで苦しんでいる。けれど、実際は発達障害ではないというケースも当てはまります。&nbsp;

中曽根： そうなんですね。改善というのは、落ち着きが出てきたり、困りごとが少なくなったりという感じですか？成田： そうですね。例えばパニックになったりする回数が激減するとかいうことです。 発達障害を疑われて私のところにやってくるお子さんは、学校現場などで問題行動が指摘されてくる訳ですが、そもそも学校としては、ほかの子ども達と喧嘩をすることもなく、学校でじっと座って授業を聞いていられて、授業の内容を理解して、テストでそこそこの点数が取れていれば何も問題はないし、リーダーにならなくても別に構わないし、それなりに学級のグループとしての行動が出来ていれば、それでOKじゃないですか。極端な話、本当に診断がつくお子さんであっても、生活を変えるだけで、そのような状態に変わる例はいくらでもあります。中曽根： なるほど。ある範囲の中で、まあまあ生活が送れるかどうか。発達障害に入るお子さんであると診断がついたとしても、生活リズムの改善とか、関わり方を変えることで充分、社会生活が送れるようになる。となると、先の調査の8.8%という数字は、結局先生が「私を困らせる子だ」と判定した子どもたちだとも言えるのですね。 &nbsp;<h2>二次障害を起こさないことがとても大切</h2>成田：　 最も大事なのは、医学用語で言う二次障害を起こさないことなのですが、対処法を間違えると、二次障害を発症してしまい、そうなると余計治療が必要な状態になります。 先日、小児科学会に出席したのですが、小児科学会でもこの話題は結構取り上げられていて、やはり極端に発達障害の子を正常にしようとか、ましてや天才児にしようという親など支援者の風潮に警鐘が鳴らされました。要はその子にとって、それほどストレスがかからずに、社会生活や集団生活が送れるぐらいの程度の環境設定を回りの支援者が努力することが重要になるかということなのです。中曽根：　 二次障害とは具体的に？成田： &nbsp; 発達障害に伴う抑うつ状態や精神神経障害、自律神経疾患などのことです。周囲の理解が足りず、叱られたり否定的な対応をされたりし続けると、自分でも「なぜ自分はできないのか」と自分自身を責め、自尊心が低下していきます。ストレス負荷が高い状態が続くことで、気分の落ち込みや不安に伴う精神疾患が発症し、問題行動が引き起こされるのです。&nbsp;<h2>親の間違った関わり方が、症状をさらに悪化させる</h2>中曽根：　 これまで関わり方を間違えたことにより、二次障害が大きくなってしまうケースを多く見てこられたから、もっと早い段階で改善させていく方法を発信されていらっしゃる。成田：&nbsp; その通りです。できれば中学高校から成人期になる前に、親御さんに理解して関わっていただくことが、子どもたちにとってはものすごく大切なことなので。中曽根： 「子どもには、やりたいことをやってほしい。その子らしくいて欲しい」とおっしゃるお母さんは多い。みんなと同じようにしてほしい、とは、おっしゃらない。でも、一方で人並みにはなってほしいと思っている。成田：&nbsp; そうですよね。やっぱり、言ってることと本音が違っているところが結構あって。おっしゃるように、根底にやはりみんなと一緒がいいという気持ちがあります。その「みんなと一緒」の一緒が指しているところが何かというところが問題で、お母さんが求める「みんなと一緒」が、お子さんと合致しないんです。大体人の知能指数は、正規分布をたどるわけですが、そのみんなっていうのはだいたいIQで言うと90から110ぐらいの範囲になるのですが、例えば80のお子さんに対してみんなと一緒にと思っちゃうと、その子にとってはしんどいことがいっぱいあるんですよ。知的障害には入らなくて、ちょっと発達障害の特性が見えたとしましょう。 そうすると、その親御さんは、しばしばその子を知的にあげようとするんです。つまり学力的にはノーマルに、というところに邁進してしまうんです。 よくあるパターンは、塾に入れるパターンです。 学力を上げる＝塾に入れる、なんですが、塾に行ってもそんなに効果が上がらない。すると塾の先生は、「もっとたくさんのクラスを取りなさい」と言う。すると塾にいる時間がどんどん長くなっていき、生活習慣が乱れてしまう。&nbsp;

反対に、勉強ができないなら、せめて運動だけでもできたらいいんじゃないかと運動教室に行かせる。学校のサッカー部に入って、さらにサッカークラブとかにも入れる。そうするとますます家での生活時間が短くなってしまいます。すると、一番大切な睡眠時間が容易に削られてしまいます。そうなると、脳の発達は絶対いい方向に行かないので、自己コントロール力など、社会心理学的な側面がうまく育ちません。 寝なければ、脳は発達しないまま、最終的な20歳以降の社会心理学的な到達点が低くなり、協調性がなく社会相互作用がない人間と判定されてしまうケースもある。そうなるとやはり就職とか、他の人たちと共同作業をして行くことも難しくなるということになってくるんですね。真逆のパターンもあって平均よりもIQが高いお子さんだというのが幼児期に見えてしまうと、今度は親御さんが、真逆の意味でこの子の能力伸ばさなきゃ！と思って、早くから塾や習いごととかに入れて、どんどんそういうところで時間を使ってしまうので、同じように生活リズムが乱れて発達障害のような症状を発症するお子さんもいます。どちらの親御さんも、一生懸命子どものことを考えているし、良かれと思ってやっているんだけれども、結論としては、あんまりいい結果にならず、発達障害もどきの状態にすごく結びついていることが多いかなと思います。さらに、その過程の中で、上手くいかない体験をいっぱいしてきて、自分に自信がないから余計ダメになっていくと言う悪循環はよくあります。でも、正しく関わると子どもは結構変わってくるので、何歳からでも諦めずに関わりを変えていただければと思います。<h2> 発達障害が疑われるお子さんへの正しい関わり方</h2>中曽根： 生活リズムを整えることは大前提として、正しい関わり方として三つあげるとしたら？成田： そうですね。生活リズムというのは、寝る・起きる・食べるなんですけど、そこは整えた上で、さらに生活というものの大切さを考えていただきたいです。 【1】一番大切なことは、言葉ポイントは、指示命令をするのではなく、子どもが自分で考えたことを親に伝えられるようにする。 言葉のやりとりっていうのが生活の中でものすごく大切なのですが、意外と軽視している方が多かったりするので。だから、言葉できちんとやり取りをするということを心がけてほしいですね。 「部屋が散らかっているから片付けなさい」とか「宿題まだやってないならやりなさい」とか、一方向のコニュニケーションになってしまいがちですが、双方向のコミュニケーションが子どもの脳を育てるので、できるだけ待ちましょう。 【2】心配するより信頼する二番目のポイントは心配するより信頼すること。 上のような指示命令の言葉が多くなっちゃうのは、基本的には心配だからですよね。言い換えれば、親御さんが不安だから。それはよくわかるのですが、そこをグッとこらえて へその下に力を込めて信頼する。例えば宿題をやっていなくても、自分でやるに違いないと信じて、子どもには「（今、宿題してないけど）きっとそのうちやると思うから、お母さん何も言わないことにするね」みたいなことを伝えておくだけにして指示をしない。発達障害が疑われるお子さんは特に、学校で失敗体験が多いんですね。 先生から、この子は問題行動が多いと思われているので、本人も「うまくいかないなぁ」と思っていることが多い。なのに家に帰ってきても、さらに親御さんから「あれやってない」「これしなさい」「ダメじゃない」と否定する言葉ばかり言われていると、どこまで行っても自己肯定感は育ちません。ですから、これはもう、ぜひやっていただきたいことかなと思います。 【3】家庭の中で役割を持たせる三つ目は、家庭の中で役割を持たせるということです。 私は、お手伝いという言葉はもうやめましょうと言っています。どういうことかというと、子どもに完全に役割を与えてしまうのです。そして一度任せたら、親は一切手を出しません。例えば毎日のゴミ出しを任せるとします。分別の日を把握して、全員のゴミを全部まとめて出す役割です。子どもは、ちゃんとカレンダーを見て「今日は瓶の日だな」とチェックして、時間までにまとめてゴミを出す。 最初のうちは失敗もあるかもしれませんが、そこで怒ったりしてはダメ。ぐっと我慢して、子どものほうが根比べに負けて「本当にこれやらないといけないんだな」と思ってやり出したときに初めて「ちゃんとできるようになったね」と認める言葉をかけてあげることで、自信がつきます。 役割を与えて、それを遂行できて、認められたという経験が、いわゆる社会生活での自信のもとになります。&nbsp;

<h2>「助けて」「ありがとう」「ごめんなさい」三つの言葉が使えるように</h2>ここができてきたら、次の段階として出てくるのが、例えば“今日は朝から朝練に行かないといけないからゴミ出しをする暇がなくなってしまった”というときに、「お母さんごめん。今日は燃えるゴミの日なんだけど、どうしても朝練に行かなくちゃいけなくて、ゴミをまとめる時間がなくなっちゃったんで、申し訳ないけどお母さん代わってくれませんか」とお願いする。そして、お母さんが「分かった。じゃあ今日だけお母さんが代わるね」って言ったときに出てくる言葉が、「ありがとう」じゃないですか。「ありがとう、助かったお母さん」って言えるかどうか。「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えるようになることって、社会の中で何よりも役に立ちます。社会の中でうまくいかないと言われる発達障害のある子であっても、ない子であっても、誰にとっても大事なことなので、「助けて」「ありがとう」「ごめんなさい」この3ワードがきちんと使えるようにしていきましょう。 これさえ出来ていれば正直OKです。<h2> ここだけはという軸を持ってポジティブに</h2>最後にお伝えしたいのが、親のぶれない軸です。 親御さんがブレブレになっちゃうと、子どもは不安で仕方ない。だから親は『ここだけは』という軸を立てて、それをぶれさせないこと。 そしてその軸は、親御さんがお子さんに『これだけは人間としてやらせたくないと思うこと』にしていただきたいなと思います。その軸が定まれば、「宿題をするかしないか」とか、「サッカーの練習をサボる・サボらない」とか、「部屋を散らかしている」とかはすべて、親御さんが根性入れて叱ることではなくなっちゃうので。そうすると親御さんも結構スッキリして、関わりはすごく楽になるし子どもさんも不安はすごく減り、ポジティブな考え方や笑顔が増えてくると、割と上手くいくようになるかなと思っています。 中曽根：　 発達障害か、そうでないかに関わらず、親は、人の発達の順番を科学的に正しく理解すること。そして、その子の育ちを信じて、見守ることが大切なんですね。&nbsp;

成田奈緒子　著 「『発達障害』と間違われる子どもたち」近年、発達障害と呼ばれる子どもが劇的に増えています。文科省が出している数字を見ると発達障害が疑われる子は、この13年で約10倍に。ただ、35年にわたって子どもの脳・育ちに向き合ってきた著者は、増えているのは発達障害の子ではなく「発達障害もどき」ではないかと話します。発達障害もどきとは一体何か、発達障害もどきから抜け出すにはどうすればいいのか――。臨床経験35年以上の小児科医が、増え続ける発達障害児の中にいる「発達障害もどき」について初めてまとめた一冊です。

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