教育のアレコレ

中曽根 陽子（なかそね・ようこ） 数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストであり、幸せな子育てを探究する<a href="https://www.motherquest.net/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">マザークエスト</a>代表。東洋経済education ✕ ICT、プレジデントオンライン、中学受験ナビなど多くのウェブメディアで執筆。『成功する子は「やりたいこと」を見つけている　子どもの探究力の育て方』（青春出版社）他著書多数。

子どもの健やかな成長のためには、規則正しい生活リズムが大切であるということは、よくいわれています。近年増えているといわれる発達障害も、実際は生活リズムの乱れが影響している場合があることがわかっており、このサイトでも紹介しました。 さらに、睡眠時間が学力や子どものメンタルにも影響していることがわかっています。そこで今回は、子育てにおいて、早寝早起き朝ごはんに象徴される規則正しい生活リズムを整えることがなぜ大切なのか、さまざまなデータと共に紹介しましょう。

<h2>幼児期の生活リズムは子どもの脳の発達にダイレクトに影響する</h2>子どもの脳の発達に、睡眠や食事など幼児期の生活リズムの乱れが影響を与えていることは、数々の研究でわかっています。有名なものでは、三角形が描けない5歳児についての研究があります。 これは、現國學院（こくがくいん）大学教授 鈴木みゆき氏らによる調査で、幼稚園・保育園の年長児たちに三角形を見せて、それを模写してもらいました。 すると、起床時刻や就眠時刻が不規則な子どもたちは、下図のように、規則的な子どもたちに比べ、角がなく丸いもの、斜線がギザギザになっているものなど、きちんとした三角形を描けないリスクが高いことがわかったのです。

三角形の模写は、視覚認知を運動機能に結びつける能力の検査で、水平や垂直な線に比べて難しいため脳の発達を調べる指標になると考えられています。三角形は一般的に4歳半から5歳半にかけて描けるようになるといわれており、その年齢になってもうまく描けないということは、それだけ発達の過程が阻害されているという意味になるのだそうです。この調査では、2週間にわたり子どもたちの睡眠時間を調べました。 その結果、毎日の起床時間に1.5時間以上のばらつきがある子どもたちの76％が、保育者から「ボーッとして無気力」「理由のない攻撃性を示す」など「気になる子」という指摘を受けていました。また36％が三角形の模写が上手にできない子どもでした。この調査の意味について鈴木先生は、

不規則な生活リズムが、脳の中で認知（見たもの）と運動（模写する）を統合する機能に影響を与えることが示唆されたわけです。 これは、就学後、漢字や図形を学ぶ子どもたちにとって、規則的な生活リズムを幼児期にきちんと整えておくことの重要性を示しています。睡眠は記憶の整理や定着とも関連しているため、睡眠不足は小学校以降学力の低下につながります。 「早寝早起き朝ごはん」で日々の生活リズムを規則正しく整えることは、脳の発達にも影響する大切な習慣だといえるでしょう。

と言っています。&nbsp; （「早寝早起き朝ごはん」全国協議会リーフレットより引用）[鈴木みゆき]この調査が行われた当時、3歳児の半分以上が夜の10時以降に寝ているというデータも出ました。睡眠リズムの乱れが脳と情緒の発育に悪影響を与えている可能性があるという結果に文科省も危機感を募らせ、早寝早起き朝ごはん運動が広がるきっかけにもなりました。その運動のおかげか、10年後には、10時以降に寝ている3歳児は31％と改善。朝ごはんを毎日食べる割合も以前に比べて増加しているようです。ただ、だからといって今の子どもたちが十分な睡眠が取れているかというと、そういうことはなく、子どもの年齢別に推奨される睡眠時間と実際の睡眠時間を調査した最近の大規模調査の結果では、ほとんどの年齢で推奨される睡眠時間に足りていないという結果になっています。<figure class="image"><img src="https://brain-sleep.com/service/sleepdeviationvalue/assets/2021kids/img/graph2.png"></figure>※1 National Sleep Fonundation2015参照。図の中では平均値をベースに算出 ※2 睡眠時間に関して適切な回答が得られていない方を除外して算出（<a href="https://brain-sleep.com/service/sleepdeviationvalue/research2021kids/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">2021年度子どもの睡眠偏差値 </a>より引用）

<h2>睡眠時間と生活リズムは子どもの自己肯定感やメンタルと相関する</h2>また、残念なことにその傾向は学年が上がるにつれて悪化しています。小学5年生以上を対象に行った、文部科学省の「<a href="https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/__icsFiles/afieldfile/2015/04/30/1357460_01_1_1.pdf" target="_blank" rel="noopener noreferrer">睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査の結果（概要）」</a>によると、次の日に学校がある日の就寝時刻は、学校段階が上がるにつれて遅くなっていて、小学生の50.8%が午後10時すぎに就寝しており、さらに中学生の22.0％、高校生の47.0％が0時以降に就寝していることがわかっています。皆さんのお子さんは、何時に寝ていますか？ 「みんなが遅くまで起きているから平気」と思っているとしたら要注意。なぜなら、子どもたちの脳は発展途上。睡眠不足は、脳の発達やメンタルに大きな影響を及ぼすからです。それを示すのが、就寝時間と「自分のことが好きかどうか」という自己評価の相関関係を示したデータです。これによると、就寝時刻が遅い子どもほど、「自分のことが好きだ」と回答する割合が低く、「なんでもないのにイライラする」と回答する割合が高い、という結果になっています。

なぜ、このような結果になるのでしょう。その理由が脳科学の研究で明らかにされつつあります。わたしたち人間は、日中活動をする昼行生物です。朝の光を浴びることによって、覚醒を促す脳内物質であるセロトニンが活発に分泌されます。その結果、頭がスッキリと目覚め、心の面では集中力が上がります。 また、自律神経が副交感神経から交感神経に切り替わり、活動に適したからだになります。 しかし夜間に強い光を浴びて夜更かしをするうちに、本来持っている動物としての活動リズムが狂い、その影響が心身の不調となって表れてしまうのです。また、生活リズムの乱れにより、感情のコントールなど脳の高度な機能を司る部分が正常に発達しません。その結果、自己コントロール力など、社会心理学的な側面がうまく機能せず、なんでもないのにイライラするといった症状として現れるのです。

『寝る子は育つ』といわれますが、睡眠には心身の疲労を回復させる働きのほかに、自己肯定感やイライラなど、メンタルにも影響を及ぼしているのですね。（図1、図2：<a href="https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/__icsFiles/afieldfile/2015/04/30/1357460_01_1_1.pdf" target="_blank" rel="noopener noreferrer">「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査の結果（概要）」</a>より引用）&nbsp;<h2>睡眠時間は、脳の海馬の大きさにも影響</h2>また、睡眠が脳の機能にも影響を与えることもわかっています。ここに興味深いデータがあります。 『記憶にかかわる脳の海馬は、睡眠時間が長い子どものほうが、より大きい』　というのです。これは、<a href="https://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/152" target="_blank" rel="noopener noreferrer">東北大学加齢医学研究所瀧 靖之 教授らによる研究</a>で、健康な5歳～18歳の子どもたちを対象に、平日の睡眠時間と、脳の記憶を司る領域である海馬の体積の関係を明らかにしたものです。<figure class="image"><img src="https://www.megabank.tohoku.ac.jp/wp/assets/files/images/ID152fig.jpg"></figure>図／ 上段：平日の睡眠時間と有意な相関を呈する局所灰白質領域。 &nbsp; &nbsp; &nbsp;下段左：左海馬における、平日の睡眠時間と灰白質量との相関。 &nbsp; &nbsp; &nbsp;下段右：右海馬における、同相関。（<a href="https://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/152" target="_blank" rel="noopener noreferrer">瀧靖之教授研究成果　内容 &nbsp;―健常小児における海馬体積と睡眠時間との相関― </a>より引用）

その結果、平日の睡眠時間と、海馬の体積には有意な正の相関が見られました。 つまり、睡眠時間を十分に取っている子どもは、睡眠時間が短い子どもに比べ、海馬の体積が大きかったのです。海馬は、睡眠中に活性化し、昼間経験したことを何度も再生して確かめ、知識として蓄積しています。その働きを助けているのが、子どもの成長に欠かせない脳内物質であるメラトニン（暗くなると分泌され、体温を下げて眠りを誘う働き）と成長ホルモン（寝入ってすぐの深い睡眠時に分泌され、脳、骨、筋肉の成長を促す働き）です。眠る時間が遅くなると、これらの脳内物質の分泌に影響を与えてしまうので、それが子どもの脳の発達に影響を与え、物理的な体積の差になるのでしょうか。十分な睡眠と規則正しい生活習慣、つまり早寝早起き朝ごはんが、お子さんの脳の発達に重要な役割を果たしているということを理解してもらえましたか？「子どもがやる気を出さない」とか「無気力で心配」と心配される方は多いですが、もしかしたらその理由が、日頃の睡眠不足や生活習慣の乱れにあるのかもしれません。「やる気がない」とお子さんのことを無闇に叱るのではなく、日常生活を見直してみることから始めてはいかがでしょうか。

【参考】 ・「早寝早起き朝ごはん」全国協議会 <a href="https://www.hayanehayaoki.jp/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.hayanehayaoki.jp/</a>・2021年度子どもの睡眠偏差値&nbsp; <a href="https://brain-sleep.com/service/sleepdeviationvalue/research2021kids/　" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://brain-sleep.com/service/sleepdeviationvalue/research2021kids/　</a>・文部科学省「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査の結果（概要）」 <a href="https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/__icsFiles/afieldfile/2015/04/30/1357460_01_1_1.pdf" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/__icsFiles/afieldfile/2015/04/30/1357460_01_1_1.pdf</a>・東北大学加齢医学研究所瀧 靖之 教授らによる研究 <a href="https://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/152" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/152</a>

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