教育のアレコレ

<a href="https://www.seiban-sodasoda.com/episodes/detail/kyoiku-no-arekore-240405/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">前編</a>では、内面にある答えを引き出すためのコミュニケーションスキル、コーチングを子育てに活かすことで、「生きる力」につながる子どもの本能を引き出していくことができる。ということをお伝えしました。菅原さんが開発された子どもの心のコーチング「<a href="https://www.heartful-com.org/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">ハートフルコミュニケーション</a>」は「子どもの幸せな自立」をテーマに、どうすれば子どもの生きる力を引き出し、伸ばせるかを具体的に提案するプログラムです。幼児から思春期まで、幅広い年齢のお子さんを持つ保護者の方々に、子どもをどのように育て、子どもとどう関われば「生きる力」を伸ばせるかを、具体的に提案する講座やワークショップを20年以上前から行っています。 不登校や親子関係などさまざまな悩みや問題を抱えた方がハートフルコミュニケーションに相談に来られるケースも多く、菅原さんもこれまで相当数のお母さんをサポートされてきました。2007年に発売された「子どもの心のコーチング」シリーズは累計100万部を突破するなど、子育て世代のバイブルとも言われています。 後編では具体的な事例を伺いながら、親子の関係性の構築の大切さについて考えます。

<h2>子どもの幸せな自立に不可欠なのは親子の関係性</h2>例）公園で遊ぶ3歳児の親子お母さんと公園で遊んでいた3歳児。夕方近くなってお母さんが言います。「もうご飯の時間だから帰ろうね」 たいていの3歳児は 「嫌だ、もっと遊ぶ！」 と言うでしょう。そのときにどうするか。A. 「そんなこと言ったら、お母さんはお夕飯の支度できないでしょ！」 と強制終了して、ガーッと連れて帰る。 B. 「そうだね。遊びたいよね。でもおうち帰ってご飯の支度しなきゃ」 「やだ～もっと遊ぶ！」 「そうだよね、遊びたいよね。でも、お母さんは夕飯の支度があるんだけど」 「やだ！」Aの場合-----遊びたい気持ちが残ったまま、子どもは自分で選ぶことなく、言われた通りに引きずられて帰ることになります。これが積み重なると、子どもは服従か抵抗しか体験することができません。やがて自分で考えることを放棄するようになります。Bの場合-----やり取りを何回か繰り返すことで、その間子どもの中では遊びたい気持ちと帰らなければならないというふたつの気持ちの間の葛藤が生まれます。この3歳児の葛藤が重要なのです。 葛藤して選択することを積み重ねていくことで、自分で考えて選択できる、つまり、自分をコントロールすることを学ぶのです。 <a href="https://www.seiban-sodasoda.com/episodes/detail/kyoiku-no-arekore-240405/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">前編</a>でご紹介したオーストラリアの親子の例もそうですが、3歳児は充分に葛藤したらママの言う通り、「帰る」と言います。 ただし、これにはお子さんの気質と、3歳になるまでの親子の関係性が影響します。 3歳までの間にお父さんやお母さんにじゅうぶん執着して、お父さんやお母さんからも好きをたくさんもらって、お互いに大好きだという感覚を養っておく、といういくつかの条件さえ整えばたとえ3歳児でも、きちんと聞き分けることができます。

<h2>小学校1年生から不登校の小学3年生の女の子</h2>私がコーチングした、不登校の女の子のお母さん。お子さんが小学校1年生から登校しぶりがありました。女の子がいま、どういう状態か、どんなお子さんか、あらゆる情報を収集した結果、この子の場合は学校に行けると判断しました。まずは親子の信頼関係を再確認していきました。何度かやり取りをする中で、女の子の性格もわかってきます。その中で、女の子には学校に行くための何かきっかけが必要だと思いました。 そこで、気質を考慮して、お母さんにこう言ってくださいという言葉を伝えました。「お母さんこれ、そのまま棒読みしてもだめだから、お母さんの言葉としてさりげなく言えるように練習してくださいね。趣旨はわかりますよね？」と。 そして、お母さんが女の子に私の言葉を伝えたら、即、学校に行くようになりました。そして登校するようになり1ヶ月経ったころ、私からお母さんにこのように言いました。 「行かないってもう一度言うから心しておいてね。そして、そのとき、お母さんはなんて言う？」 ここがまさにコーチングです。1年間ハートフルコミュニケーションで学んできたお母さんは自らそのときの対応を考えました。すると、なんとそのやりとりをした夜、女の子が「明日は学校へ行かない」と言ったそうです。一旦受け止めたお母さん。翌朝やっぱり行かないという女の子にお母さんはこう言いました。 「今日学校へ行った夕方を想像してみて。それから、行かなかった夕方を想像してみて。どっちがいい？」と。その日から女の子は体調不良以外、元気に登校しています。このお母さんもここに至るまで、いろいろなところに相談したり、勉強して、不登校は無理して行かせない方がいいというアドバイスに従ってずっと休ませていました。このままでいいのか？とハートフルコミュニケーションにこられ、親が学ぶべき子どもとの対話の方法を学んだ結果、最適なコミュニケーション方法を自ら見つけたのです。

<h2>受験で希望の高校に入学したのに学校に行けなくなってしまった男の子</h2>前述の女の子の場合は学校に行けると判断して、学校へ戻ることができましたが、誰もがそうとは限りません。すべては状況次第です。中学受験を頑張って、希望の学校に合格した息子が入学した途端に学校に行けなくなってしまったというお母さん。その男の子には、発達面に多少凸凹がありました。お母さんもわかっていたんですが、成績が良かったので、塾からはより上を狙いましょうと言われて。親子で頑張って、無事合格できたのです…疲れちゃったんですね。合格した学校に行けなくなってしまいました。受験塾では、合格を第一に考えますから。この場合は、単純に学校へ行けるように背中を押すことはできないと判断しました。 まず一番は親子の関係性を再構築しましょうと。それがない状態では子どもへのコーチングはできないので。 そして親子の信頼関係ができたところで、とにかく外へ出して、生活リズムを整えるために、何かやりたい習い事はない？と親子で話す中で、プログラミングを学ぶことになりました。 そして、なんと！中学3年生のときに自ら体をつくりたいと言って、スポーツも始めました。結局中学校へは3年間通えませんでしたが、習い事のときは外へ出て行くことができて、そこで友達もできました。高校は通信制の学校へ進学。 実は、プログラミングの先生から才能があるので、僕とアプリをつくらないかと声がかかったそうです。高校生になってもスポーツは続けています。 大学進学について、どうするのかはわかりませんが、きっと彼はいろいろな体験を積みながら、凸凹も含めて、自分の意思で将来を選ぶと思います。

<h2>受験～入学後、朝起きられず遅刻を繰り返す男の子。このままでは進級ができないと泣くお母さん</h2>受験で疲れた息子さんが入学と同時に1ミリも動けなくなってしまった。遅刻を繰り返すだけでなく、勉強もしないので、このままではせっかく受験を乗り越えたのに、進級すら危うくなると、お母さんが泣きながら相談に来られました。 子どもが朝起きられない場合、大抵は親が起こすところから始めないで、朝自分で起きるように様子をみて、と言います。絶対に起こさないで、と。 でもこの場合、かなり深刻で、起立性障害の可能性があるのでまずは起こしましょうと。 ただし、本人が起こして欲しいならお母さんが起こす、という条件をつけました。 最初は毎晩「明日は〇〇時に起こしてください」とお母さんに言うようになりました。 そのうち毎晩言うのが面倒くさいと言うので、起こして欲しい時間を紙に書いて貼ることになったのですが、ここで重要なことは、彼が自ら起こして欲しい時間を決めて自分で書く、ということです。親が決めたり書いたりしてはダメ。 結果、そこから半年も経たないうちに遅刻はなくなり、進級も何とかなりそうなところまできました。宿題もするようになりました。凸凹が気になっていたので、テストを受けるように進めたところ、やはり多少の凸凹があったようです。 実はテストの結果を受けて、認めたくないと思うお母さんは少なくないです。 このお母さんも育てる過程で、少し違うかな、とは思っていたそうですが、テストの結果を受けたお母さんの対応が素晴らしかった。 親子でテストの結果を一緒に見て、凸凹のデコのところを「あら、あなたこの能力、高いみたいよ～」と、できないところには言及せず、まずはできることに注目したそうです。 息子さんは自分のできるところを自覚して自信を持てたので、立ち直りも早かったですね。

<h2>親子の関係性を構築するための親の学びの場ハートフルコミュニケーション</h2>

ハートフルコミュニケーションでは、学校や保護者向けの講演会やワークショップを開催するほか、お母さんがコーチングを学び、子どものコーチになることでより良い親子の関係性を築くためのハートフルコーチ養成講座も行っています。どのような講座なのか菅原さんに伺いました。

親子の関係性を構築するためには、まず子どものことが正しくわかること。 講座では半年かけてそのための知識を身につけてもらいます。その知識を元に、実践や課題をこなしながら、コーチングのトレーニングも受けていきます。 その過程で、いろいろ事件が起きるので、その都度私やほかのコーチがコーチングやアドバイスをしながら並走している感じです。ここでも注意しなければならないのは、親子の関係性ができていなければ成立しません。親子の関係性と子どもの自主性をつくるために大切な時期は前述した3歳ごろと思春期です。 特に思春期の子どもは複雑ですね。自己防衛反応が働きますから。最近は思春期も低年齢化していますが、母親を上から目線でバカにする子ども、結構多いです。これがまさに子どもが自分を守るための防衛策なんですが、母親にはそれがわからなくて、自分が攻撃されていると思って恐れてしまう。体も成長する時期でもありますので、余計に距離ができてしまう。そうすると、子どもを煽ることにもなるし、逆に子どもからするとあれ？という思いになるかもしれません。ですので、ここで、怯まずに親子で対話をすることが大切なのです。ハートフルコミュニケーションでは、「愛すること」「責任」「人の役に立つ喜び」という子どもの3つの力を育てることを提案しています。 愛することを教わった子どもは幸せに生きてくための土台となる自己肯定感が育ちます。責任が生まれると人生をより良いものへと導くための問題解決能力が育ちます。そして人の役に立つ喜びが育つと良好な人間関係を築けるようになります。 大人がこの3つの力を子どもの中に育み「生きる力」を開花させる。そのためのプログラムがハートフルコミュニケーションです。

<h2>子どもの幸せのためには親自身が幸せであること</h2>この25年の間に価値観がずいぶん多様化しました。 それはいいことですが、問題も多様化しているので、複雑になりました。子育てや親子関係に悩む方も増えていますが、それに対応できる場所や人が足りていないのが現状です。 私たちのところにも困って駆け込んで来られる方がたくさんいらっしゃいます。ただ、高学歴のお父さんお母さんが多くなったからでしょうか、アドバイスを素直に聞いてもらえないことも多くなりましたね。実は一番身近にある多様性って親と子どもは違うということ。子育てが難しいのはそれが自分の人生ではないということです。子どもは別人格なので、自分の思い通りにはならないのです。 子どもの幸せの第一歩は親自身が幸せな人生を生きること。親自身の幸せは自分自身でつくるものです。時期が来たら子どもから自立しましょう。 自分自身を愛し、人生を楽しむことは子どもの幸せにもつながります。

<h2>プロフィール</h2><figure class="image image_resized" style="width:50%;"><img src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/8/05/photo_sugahara2.jpg"></figure> 菅原裕子（すがはら・ゆうこ）NPO法人ハートフルコミュニケーション 代表理事 NPO法人 日本ファシリテーション協会 フェロー人材開発コンサルタントとして、企業の人材育成の仕事に携わる。 従来の「教え込む」研修とは違ったインタラクティブな研修を実施。参加者のやる気を引き出し、それを行動に結びつけることで、社員と企業双方の成長に貢献。1995年、企業の人育てと自分自身の子育てという2つの「能力開発」の現場での体験をもとに、子どもが自分らしく生きることを援助したい大人のためのプログラム－ハートフルコミュニケーション－ を開発。各地の学校やPTA､地方自治体の講演やワークショップでこのプログラムを実施し、好評を得る。 2006年、NPO法人ハートフルコミュニケーション設立。 <a href="https://www.heartful-com.org/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.heartful-com.org/</a>

<h2>著書</h2><figure class="image image_resized" style="width:50%;"><img src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/8/05/513xPS%2BtLOL.jpg"></figure><a href="https://amzn.to/4ajRqDM" target="_blank" rel="noopener noreferrer">子どもの心のコーチング</a><figure class="image image_resized" style="width:50%;"><img src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/8/05/6106dDkUk2S._SL1500_.jpg"></figure><a href="https://amzn.asia/d/1YcFihG" target="_blank" rel="noopener noreferrer">子どもの心のコーチング　しつけ編</a>

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