SODA VOICE

<a href="https://www.seiban-sodasoda.com/episodes/detail/sodavoice-231221/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">インタビュー前編</a>では、お弁当コンサルタント・野上優佳子さんに、近年多く取り沙汰される「食育」の意味や、子育てにおいて多くの人の悩みや疑問のタネ「お弁当に何を入れるべき？」について、独自の視点から語っていただきました。 後編からは、多数の著書やメディア出演歴を持ち、実業家として多くの企業案件にも携わる野上さんの「お弁当コンサルタント」になるまでの波乱の道のりと、キャリア・家族関係を築くに至ったユニークなマインドに迫ります。

<h2>料理を始めたのは小学生。お弁当歴は中学生から35年以上</h2>ーーここからは野上さんのワークライフバランスについてお話をお伺いしたいと思います。 最初はライターをされていたそうですが、お弁当コンサルタントになり、会社を立ち上げられたのは、ご自身にビジョンとプランがあったんでしょうか。

私はもともと小説家になりたかったんですよ。だから就活もしたことがないんです。 大学生になるときに独り暮らしを始めて自炊生活が始まりましたが、両親が共働きだったので、子どものころからお料理は好きで中学のころからお弁当をつくっていました。実は私の実家には雑誌というものがなかったので、大学生になるまで小林カツ代さんも栗原はるみさんも知らなかったんです。料理研究家という仕事も知らなかった。 ーーそれじゃあ、どうやってひとりで料理を？唯一あったのが、母がお嫁入りのときに持ってきた「主婦の友シリーズ」の白黒の本。 文字が好きだったので、読んでわかりそうなところからつくってみました。もうひとつは、小学校5年生のとき、お誕生日プレゼントに買ってもらったオーブンについてきたクッキングブック！あれを1ページずつ、つくっていったんですよ。 もちろんつくれないものもありましたが、何より写真がカラーでわかりやすくて。 「言語が可視化されて、形になる」という意味で料理がとても好きだったんです。それから、祖母の存在が大きかったです。津軽に生まれ育った祖母はとてもお料理上手で、祖母の家に遊びに行くたび、普段食べないお料理が出てくる。それを台所で眺めて、お手伝いするのがとても好きでした。私の食の原風景のひとつだと思います。 &nbsp;<h2>大学卒業と同時に母親に。フリーランスという働き方を選択</h2>

大学生で就活もせず、両親にも「私、小説家になりたいから、喫茶店でバイトする。そしたらいろんな人を見ることができて、小説のネタになると思う」みたいなわけのわからないこと言っていました。卒業してすぐ結婚して長女を出産することになって。 仕事をどうしようかなと思ったとき、うちの母は公務員として産後8週で復帰してフルタイムで働いていた人でしたが、その母から「唯一後悔していることは、子どもと一緒にいる時間が短かったなと思うこと」と言われました。子育てをしながら仕事を続けてきた人生の先輩の言葉は心に響きました。 人生80年として、子どもに手がかかるのは小学生までだとすると、6年。だったら子どもと一緒にいる時間を長く取ろうと思い、私はフリーランスというスタイルを選びました。なので、実は、どこかに就職したことがないんです。文章が好きだったので、小論文の先生や塾講、赤ペン先生など家でもできる仕事と、大学生のころからアルバイトをしていたライターの仕事を続けていたところ、インターネットが日本に来て、紙からWebに媒体が変わりつつあり、私もWeb関連の仕事を増やしていきました。 &nbsp;<h2>レッドオーシャンからの逃避とお弁当に特化したコンテンツ提供</h2>ーーインターネットが一般家庭に普及する時代の到来と共に、クックパッドやアメーバブログなどで写真とレシピを紹介する一般の人たちが続々と出てきたころですね。

そうなんです。料理コンテンツって一番身近だから、一億総料理研究家時代が来るな、と思いました。その10年くらい前までは、写真が撮れてテキストにも落とせる、という人が重宝されましたが、みんなができるようになってきて。料理コンテンツは一番身近であげやすいですから。私はもともと日本文学専攻なので、食の領域の人間じゃないから、料理のうまい下手みたいなところで比較されたら、料理家をはじめとするプロの方たちには到底勝てない。 すでに料理という領域はいわゆる「レッドオーシャン（※）」になっていたので、このままここにいたら比較されてしまうと思って、ジャンルを変えようと思ったんです。私、競争するのが嫌なので。※レッドオーシャン：競争相手の多い業界、領域 ーーそれでお弁当に？ はい。そのころはまだ「お弁当の人」はいなかったんです。キャラ弁とかも出てきていませんでした。私は無理をするのが嫌なので、自分ができる中で、誰にも比較されずにできることはないかなと探して、いろいろ見ていたときに、お弁当を見つけました。お弁当って悩みごとがつきもの。中学からお弁当をつくってきたので、人の悩みを解決して少しでも軽くできたとしたら、そこにはコンテンツとして提供する役割があるかもしれないと。それでお弁当に特化しようと思ったんです。<h2> 「面倒くさがり屋」の戦略的キャリア選択</h2>ーーある意味戦略的ですよね。コンサル的というか。

そう言われること、あります。センター試験1期生で、いわゆる就職氷河期で、激戦の時代でしたが、私は競争するのが嫌でした。勝てない勝負はしたくない。できれば楽がしたい。 だからレッドオーシャンで戦うことから常に逃げてきただけで。ただ、私の周りは母も叔母もみんな働いていたので、働かないという選択肢はなかったんです。戦うのが嫌だから就活はしませんでしたが、面倒くさがり屋だから、常に楽な方を選んできただけなんです。自分としては苦手なことは避けて、書くことは好きだからできる、でも大変なのはすみません！って避けてここまで来たので、戦略的とか言われると恥ずかしいです、本当に。ーーそんな野上さんが、いまやお弁当というレッドオーシャンのど真ん中にいらっしゃる。そうなんですよ、だからここ5年くらい、めちゃめちゃ考えています。 何か新しくチャレンジできることはないかなーって。 レシピって、自分がつくったと思っても、検索するとあるんですよ。どこかに似たようなものが。 だから私はレシピを量産するんじゃなくて、そのコンセプトとか思考の部分を中心にしていこうと考えているところです。プレゼンの資料をつくったり、説明するのは好きなので。正直、いまはしんどいです。自分の価値っていうか、どんな形で社会貢献ができているのかな、とかいろいろ考えています。こういう波って10年に1回くらい来ませんか？でも一歩踏み出すのは勇気がいることですし、これまで通り、しんどいことからは逃げながら（笑）無理せず、楽な方へといくうちにまた何か見つかると良いな、と思っています。<h2> 子連れ再婚と出産。新しい家族の在り方について</h2>ーーフリーランスで働きながら3人のお子さんを育てられ、現在はご夫婦で会社を経営されていますが、それは計画的に？ 夫と私は仕事で知り合ったんですが、2人ともフリーランスだったんです。 たまたま大口案件が来て、法人でないと受けられないということで、最初妹と2人でそれなら会社をつくっちゃう？ということになり、そうしたら夫も、一緒の方が仕事しやすいよね、という話になって。だからほんと、計画性はないんです。夫にはコンサルの案件とか、相談に乗ってもらうことも多いです。特にプレゼンの資料をつくるのが上手なので、とても助かっています。 娘たちもコンサルやマーケティングといった近しい分野で仕事をしているので、家族でたくさんおしゃべりします。うちは毎晩、お夕飯がめちゃくちゃ長くて、毎日居酒屋みたいになっています。土日は4時ごろから飲み始めてご飯食べて9時くらいまでおしゃべりしながら飲んで。文字通り、食卓が「コンフォートゾーン」です。 ーー3人のお子さんを育てながら仕事をしてこられて、ワークライフバランスが崩れたことはなかったんですか？

瞬間的にはありましたよ。締め切りが迫っているとか「上の子はインフルで下の子はノロウィルスです」みたいな。そういうときは「大変です～」ってみんなに言っていました。 特にシングルマザーのときはいろいろなところに子連れで参加していました。 ただ私、子育てで悩んだことがなくて。いままでの仕事のどれよりも子育てが一番好きで楽しいんです。シンプルにおもしろくって。おもしろいなあと思っているうちに大きくなっちゃった感じです。いま14歳の末っ子の息子は、4～5歳のころ待機児童だったんですよ。 仕事が入った日に一時保育が取れないときは、仕事先の同じ沿線の大学に通う長女に駅のホームで息子を預けて、サークルに連れて行ってもらったこともありました。ちょうど、長女と次女の大学が便利な場所にあったので、仕事の場所に応じてどちらかの娘に預けてそのままサークルに連れて行ってもらうことで乗り切りました。夫はそのころとても忙しくて全然回らなくて。私たちは再婚同士で、夫には子どもがいなかったので、いきなり多感な2人の娘のお父さんになったわけです。変に距離を詰めるんじゃなくて、おいおいやっていこうみたいな感じでした。 だから息子が生まれたときに、夫がいろんなことをできなくても全く気にならなかった。だって、知らないよね～って。家事も私の方が上手なので、そこはしゃあない！みたいな感じで。その代わり、プレゼンの資料は私より上手だから手伝ってね、って。 人にできないことがあっても気にならないんですよ、私。それにそもそも夫のことを人として尊敬しているので。 &nbsp;<h2>無理をしないで長く社会と繋がっていたい</h2>ーー仕事をする上で、何か大切にしていることはありますか？

とにかく無理をしないことですかね。しんどいなあと思ったときには、こっちの方がちょっと良いかも、くらいの感じで選んでいるような気がします。 いま、子育てでいろいろ悩んだとしても、正解かどうかの答え合わせは死ぬ直前にしかできないから、なんとなく正解なんだろうと思ってやり過ごすという感じでしょうか。この前、好きな言葉を聞かれたことがあって、かなり悩んで「喉元過ぎれば熱さ忘れる」って言ったら、娘たちが「そこだよ、ママ」って。私、忘れちゃうので楽なんです。 ただ、嫌なところには寄りつかないし、嫌な人には近づかないようにしています。それはずっと大切にしています。 &nbsp;ーーいつまで働いていたいと思われますか？

あまり考えたことはないですね。 体力的には月に100キロジョギングで走っているので、問題はないです。 報酬の有無は別として、社会とつながりを持てて、なおかつ誰かの役に立つことができたら素敵だなと思います。 実は私の母が仕事を定年退職後、自分の存在が社会の何かに貢献できていないと悩んでいたんですよ。だから社会とのつながりは大切だなあと思いました。そして、20代の娘たちを見て、自分が20代にやっていた仕事と同じことをしちゃいけないと思うようになりました。手放さないと仕事を取ることになるから、申し訳ないなと思うんです。だから、次の世代の人たちのために、小さくても芽を見つけていこう、と思っています。

「無理しない」ということを軸に、波乱万丈な人生を受け入れ、最も居心地のいい場所を見つけながらキャリアや母としての道を切り拓いてきた野上さん。 しんどいと感じたら周囲に伝えることや、楽にできることを意識的に選んでいくこと。私たちが、それぞれの食卓＝コンフォートゾーンを持って生きていくためのヒントになりうるかもしれません。野上さんがファシリテーターを務めた「みんなで探究」の動画はこちらをチェック！<figure class="image"><a href="https://www.seiban-sodasoda.com/episodes/detail/minna-de-tankyu-231228/" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><img src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/8/05/IMG_2269.JPG"></a><figcaption>みんなで探究「お弁当を詰めて・食べて・知ろう！」</figcaption></figure>

<h3>プロフィール&nbsp;</h3><figure class="image image-style-align-center image_resized" style="width:75%;"><img src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/9/05/MicrosoftTeams-image%20(small).png"></figure> 野上 優佳子（のがみ ゆかこ） 弁当コンサルタント、料理家。3人の母。 中学生の頃からお弁当を作り続けて35年以上。 国内外で講演やワークショップを行い、単なる料理レッスンではなく「日々心地よく生きるアイデア」が楽しく分かりやすく学べることで好評。『楽しく作って毎日おいしい　こどものおべんとう』（成美堂出版）『お弁当づくりの地頭がよくなるお弁当のセカイ』（ワニブックス）など、お弁当に関するレシピ本をはじめ著書多数。サステナブル弁当箱の商品企画や監修なども手掛ける。東京学芸大学教育学部卒。株式会社ホオバル代表。 Instagram：<a href="https://www.instagram.com/yukakonogamis/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">@yukakonogamis</a>

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