SODA VOICE

病院に入院している子どもたちの病室を訪問して、子どもが子どもらしく過ごせる『こども時間』を届ける、そんな活動をしている団体があります。今年で創立19年になる「<a href="https://www.cliniclowns.jp/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">認定NPO法人日本クリニクラウン協会</a>」です。病室を訪問するのはクリニクラウン（CliniClown）日本語訳で臨床道化師。 病院のことをクリニック、赤い鼻をつけた道化師のことをクラウンといいます。その2つの言葉を合わせてクリニクラウンというそうです。日本クリニクラウン協会は『すべてのこどもにこども時間を』を合言葉に、これまで84病院を3500回以上訪問、延べ11万人以上の子どもたちに出会ってきました。 コロナ禍で訪問がかなわなくなってからは、web事業を立ち上げ、オンラインでのバーチャル病院訪問やYouTubeクリニクラウンチャンネルでの動画配信も開始。

さらには病院という枠を越えて、病気や障がいの有無にかかわらず、子ども同士が交流できる『<a href="https://www.cliniclowns.jp/wp/news/2023web-minna" target="_blank" rel="noopener noreferrer">クリニクラウンとみんなでWebで遊ぼう</a>』というプログラムも行っています。 ようやくリアル訪問も復活しつつありますが、コロナ前は48病院だったところを昨年は16病院を月1～2回のペースで訪問しているそうです。 ▼『クリニクラウンとみんなでWebで遊ぼう』詳しくはこちら <a href="https://www.cliniclowns.jp/wp/news/2023web-minna" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.cliniclowns.jp/wp/news/2023web-minna</a>

クリニクラウンは1992年にオランダで生まれました。運営するのはクリニクラウンオランダ財団。約80名のクリニクラウンがオランダ全土の病院、医療機関、リハビリテーションクリニック、ホスピス、特別学校、デイケアセンター、デイケアセンターを訪問するなど、オランダの人々の生活にはあたりまえの存在となっています。今回お話を伺ったのは「<a href="https://www.cliniclowns.jp/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">認定NPO法人日本クリニクラウン協会</a>」の事務局長・熊谷恵利子（くまがいえりこ）さん。 熊谷さんは2005年「日本クリニクラウン協会」主催の第一期オーディションに合格した一期生。当初4人の1期生からスタートしたクリニクラウンも今では総勢33名。事務局のある大阪を中心に全国的に活動しています。

<h2>偶然が必然を引き寄せたクリニクラウンとの出会い</h2>熊谷さんがクリニクラウンを知ったのは2003年のこと。 新聞にクリニクラウンが文化紹介という形で日本に来たという記事を見つけたお母さんが、切り抜きをして「これあなたがやりたいことじゃないの？」と言って見せてくれたそうです。その記事が最初の出会いだったのですが、記事を読んだ熊谷さんのその後の行動がおもしろい。

ーー熊谷さん（以下熊谷） 記事で紹介されていたワークショップに参加しようと思いましたが、もう締め切った後でした。問い合わせはオランダ領事館へって書いてあったので、見学だけでもと、とりあえず電話をしました。そうしたら、「クリスマス休暇です。お急ぎの方はこの番号に」って。そうなんです。電話したのは12月の20日過ぎでした。笑　で、一度電話を切って考えました。お急ぎの方って？これはお急ぎなのかどうなのか？って。世間的に急ぎとはパスポートの申請とか、そういうことだよね、と思いながらも、「いや、もうこれは私にとって急ぎということで電話させていただきます！」って電話をかけました。 そうしたら、ワークショップは締め切りましたが、基調講演は聞けますよ、と言われたので、翌2004年の1月、大阪での講演を聞きに行きました。 そこで初めてオランダのクリニクラウンがどういう理念で活動しているのかという話を聞いて、亡くなった父の入院生活のことを思い出しました。 &nbsp;<h2>父の入院生活で気づいた子どもにとって大切な第三者の存在</h2>入院していた父が院内感染をして個室に入れられたんです。 元気でしたが、感染症だからということで隔離されてしまって。家族も接触しないでくださいって言われ、看護師さんもドクターも緊急性がないので、あまり来ないわけです。 ある日面会に行ったら、もともとすごく陽気だった父親が、なんか、ぼーっと空中を見てるんですよ。私が「おはよう」って声をかけたら、父が「恵利子、お父さん白い壁ばっかり見てたら、気が狂いそうだ。」ってポツンと言ったんです。

そのあと何を言ったのかは全然覚えていないんですが、とにかく私は、ものすごく衝撃を受けたんですね。総領事館の文化紹介でお話を聞いたとき、それまですっかり忘れていた、あのときの感情を思い出したんです。「ああ、人に会えないと、こんなにも人って気持ちが前向きになれないんだな」って思ったことを。 誰にも会えない環境は人にこんなにもダメージを与えるんだって、改めて感じたんですよね。そして、お父さんは大人だけれど、これが子どもだったらどうなんだろうって思ったんです。 子どもはいろんな人に会ったり、いろんな経験をすることで成長していくものなのに、そういう機会が極端に減ってしまうって、子どもにとってどうなんだろうって、改めて思いました。 なので、クリニクラウンの活動ってすごく大切なんじゃないかと思ったのが、今の私の活動につながる大きなきっかけです。入院中の父は、誰かが面会に来ると元気なんですよ。もちろんその後、ぐったりしていましたが。でもやっぱり人と関わることで、人ってパワーをもらうんだなって思いました。ただ、家族同士だと、どうしてもお互いを思いやって、気を使ってしまいます。その点、クリニクラウンは子どもたちや家族にとっては第三者です。いつもそばにいる存在ではない、フラットで自由な関係なんですね。 だから、家族には心配をかけたくないと思っている子どもたちが、正直な気持ちや感情をぶつけることができる。そんな存在が大切だなって思います。

<h2>運命に導かれるように出会ったパントマイム</h2>ーーSoda!Soda! 熊谷さんは大学生のとき、パントマイム劇団で活動されていたそうですね。 そこから今の活動にどうつながってきたのでしょうか。

ーー熊谷 大学のゼミ室では、ラーニングデザインといって学習環境のデザインを学んでいました。先生はワークショップを開催するなどアグレッシブな先生でした。例えば、話をするにしても、机の形や並べ方、または黒板を書きながらとか何かを見せながら、といった環境の違いが影響するのではないかというような考えの先生で、ものすごくおもしろいゼミでした。そのゼミ室には、個性的でとても素敵なメンバーが集まっていましたが、私は取り柄もなく、やりたいこともなく、何をしたいのかわからずにいました。 そんなときに、ゼミ室でふとパントマイミストのカンジヤママイムさんの本が目に入ってきて。それを手にとって読んでみたら、「パントマイムに必要なのは、あなたの想像する力と体です。それ以外は何も必要ない。あなたはもう持っているんですよ。大人になると、目は外を向いているから、ついつい鳥は飛べていいな、とか人のことを羨ましがってしまう。でも、あなたにはすごい可能性が隠れているんだ。」みたいなことが書いてあったんです。 うわーって思いました。そういえば、こういう世界って好きだったし、やってみたいなと思って。その気持ちをゼミの友人に話したら、カルチャーセンターにパントマイム教室があるよ、と教えてくれて、行ってみたんです。

そうしたら、それまで見たことがなかったパントマイムを目の前で見た瞬間に、動作だけなのに、セリフがもうわーっと聞こえてきて、これはなんだ！！と思って。すぐにやってみたい！と思ってカルチャーセンターに通い始めました。 その後、勢いで先生が主催されているパントマイムの劇団にも入り、カルチャーセンターと劇団のパントマイム漬けの日々を過ごすことになったのです。就職してからも劇団は続けて、そのほかにバレエとジャズダンスのレッスンにも通っていました。バレエはもちろんまったくの初心者だったので、子どものレッスンに混ざって。笑 とにかくすべてパントマイム中心の生活でした。そうこうしていたら父が病気になって、入院生活になりまして。それをきっかけに仕事を辞めて父のお見舞いを中心に、アルバイトと劇団とレッスンという生活になりました。結果的に父は亡くなってしまいましたが、父の看病から看取りの過程で、多くのことに気づかされ、今の活動につながっています。

編集部記クリニクラウンは全身で感情を表現して、言葉だけに頼らないコミュニケーション活動でもあります。パントマイムとお父様の入院生活、すべてが必然だったと思わずにはいられません。 今では社会的課題を解決すべく、目標に向かって主体的かつ積極的に動いておられる熊谷さんですが、ここに至るまでは何がしたいのかわからないモヤモヤ時期が長くあったそうです。 後編では熊谷さんがどのようにモヤモヤから抜け出したのか。そしてクリニクラウンの活動を通して感じる子どもや社会の課題について伺います。 （構成／Soda!Soda!編集部・大谷ミサ）

<h2>プロフィール</h2>

熊谷 恵利子（くまがい えりこ）1975年生まれ。在学中にノンバーバルコミュニケーションに関心を持ち、パントマイムの世界へ。パントマイム劇団の劇団員として活動をする中、こどもの人権にかかわるNPOや大阪府男女共同参画・青少年センターで非常勤スタッフとして勤務。これまでの経験を活かし、日本で初めて養成された認定クリニクラウン（第1期生／認定2006年3月）の一人として、2005年から全国の小児医療施設へクリニクラウンとして定期訪問を行う。2009年度より事務局スタッフを兼務。クリニクラウン東北支援事業の立ち上げや、啓発事業にも取り組む。2019年に事務局長に就任し、後進の育成や協会の組織基盤を強化するために奔走している。

<h2>認定NPO法人日本クリニクラウン協会</h2><figure class="image image_resized" style="width:50%;"><img src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/8/05/%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%A6%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AB%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E6%99%82%E9%96%93%E3%82%92(2).jpg"></figure><figure class="image image_resized" style="width:50%;"><img src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/8/05/a%E8%AA%8D%E5%AE%9ANPO%E6%B3%95%E4%BA%BA%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E5%8D%94%E4%BC%9A%E6%A8%AA%E9%95%B7(3).jpg"></figure> 認定NPO法人日本クリニクラウン協会は、「すべてのこどもにこども時間を」を合言葉に、赤い鼻がトレードマークのクリニクラウン(臨床道化師)を小児病棟に派遣し、入院しているこどもたちが、こども本来の生きる力を取り戻し、笑顔になれる環境をつくるために2005年から活動しています。病気の治療のためにさまざまな制限の中で入院生活をしている子どもたちが思いきり笑い、主体的に遊ぶことのできる環境をつくること、それがクリニクラウンの役割です。クリニクラウンは、入院中のこどもたちが子どもらしく過ごせる「こども時間」を届けます。病棟スタッフと協働し、こどもの療養環境の向上を目指します。<a href="https://www.cliniclowns.jp/index.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://www.cliniclowns.jp/index.html</a>

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