SODA VOICE

『10才からの自分キャッチコピー』この青いテキストのはじめのページにはこんなことが書かれています。“自分を一言で伝えられるということは 自分で自分のことをよくわかっている、ということです。 そのためにはあなたが何を好きで どんなことでこころが動くのかをよく観察して、 伝えたいことを決めて しっくりする言葉を正しく並べていくのが近道です。～中略他の誰でもないあなたに 好きになって欲しくて生まれた 世界でたったひとつの、あなたを照らす言葉です。” このテキストをつくられた坂本和加さんは、コピーライターとして企業や商品のコピーを考えたり、作詞家、作家として活動されるほか、ブランディングディレクションや企業研修の講師など幅広い分野でお仕事をされています。 カルピスの『カラダにピース』や2009年に毎日広告デザイン賞の最高賞を受賞した​​小学一年生（小学館）の『こくご、さんすう、りか、せかい。』といえば、「あー見たことある！」と思われる方も多いはず。

坂本さんは10年以上にわたり、小学生にコピーライティングのレクチャーをしてきた経験から、自分のキャッチコピーを考えることは自尊心を見える化し、へこたれない心を育てることにつながると確信し、この青いテキストをつくることに至ったそうです。 &nbsp;<h2>愛されることで育った自尊心は一歩踏み出す勇気をくれる</h2>ーコピーライターになる前は会社員だったそうですね。 はい。「そうだ！コピーライターになろう！」と思いついて、コピーライターになりました。もともと文章を書くことは好きで、学生時代から旅のエッセイを書いたりしていました。 ある日、「ことばの仕事がしたい」と会社を辞めました。作家やエッセイストなども考えましたが、短い文章で食べていけそうなコピーライターなら余裕でできそうだ、と思って。まったく何の根拠もないのに、なぜか「できる」という思いこみがあって。不安や迷いは少しもありませんでした。 振り返ると私は、割と子どもの頃から「迷いなく突き進めてしまえる」ところがありました。ポジティブな性格も相まって「できないかもしれない」とは思わないのです。 常に「なんか楽しそう～」と走って来られたのは、自尊心が育っていたからかもしれません。 その後コピーライターとなり、何社目かで出会った師匠は広告業界では著名な方で、仕事関係含め周りにいらっしゃる方もいわゆる一流の方ばかりでした。 「自分なら！」という思いこみの延長で飛び込んではみたものの、現実はできないことだらけで、葛藤と挫折の連続でした。素晴らしいコピーをバンバン書いている師匠のそばで、どうして自分はできないんだろう、と悶々とする日々でした。

それでも夢中で書き続け、この仕事が天命だと思えるまでになれたのは、言葉が好きだったこと、辞めなかったこと。自分を信じて夢中で突き進めたからだと思います。 &nbsp;<h2>自分を知り、人との『違い』を理解することが自尊心につながる</h2>ー子どもの頃から物事を深く考えるタイプだったんですか？いろいろと考えているタイプでしたね。変わった子どもでしたし、「同じ」が違和感でしたね。なんでみんな同じっていうんだろう、みたいな。 私は違うのに…孤独だなあ…と。今でも「同じ」と「違い」について考えることがあります。 例えば木を見たとき。同じ木でも枝ぶりもつき方も、1本たりとも同じじゃない。なのになんで春になったら「同じように」一斉に芽吹くんだろう、とか。 桜は春になったら一斉に咲くけれど、「そろそろ一緒に咲こうね」なんて桜の木たちは示し合わせたりはしません。当たり前ですが、それぞれの木が気温や湿度を感じ取って咲いているだけです。つまり同じに見えているけれど、実は違う。 人間も自然の一部なので、それとまったく同じだと思うんです。そういうことに気づいて、細やかに物事を捉えて見ていくことが、今の時代、本当に大事だと思います。課題や解決しなければならない大切なことの気づきにつながるからです。 コピーライターに転職して、憧れの師匠の元で長らく葛藤し、独立し、振り返って思うのは、「憧れることはいいことだけど、同じにはなれないし、ならなくていい。同じ人は二人必要ない」ということです。 どうしても賞レースも評価されてしまう世界に身を置くと、他人と比べて自我が出てしまう。でも大事なのは本当はそこじゃなく、人と自分は最初からまったく違うわけで、私は私になればいいということでしょう。コピーライターという仕事は物事の本質を見抜いて、言葉で見える化する仕事です。自分を知り、人との『違い』をちゃんと理解することは、自分は自分でいいのだ、というこころ（自尊心）を育みます。これが『自分キャッチコピー』の原点かもしれません。

<h2>日本語ほど複雑で奥が深い素晴らしい言語はない</h2>もともと何かを人と共有することが好きで、ワークショップみたいなことをずっとやっていました。最初は大人向けに、写真や絵に言葉をつけて、絵葉書のようなものを完成させるというワークショップでした。ほんとに寺子屋みたいな少人数でやっていて、ここで何か新しい表現が生まれたらおもしろいなあと思ってやっていました。言葉がある世界とない世界で一枚の写真や絵の世界がどう広がるか、それを共有することでその人の人柄が写真と共に伝わってくる感覚がおもしろくて。やっぱり言葉っておもしろいなあっていうのが、ずっと私の中にあります。

でも、言葉がおもしろいと思っている人は多くはなくて、むしろ日本語は難しいとか、言葉って面倒臭いと思っている人が割と多い。実際、日本語はひらがな、カタカナ、漢字があるうえに、同音異義語が多いので、『伝える』ことの難しさを感じてしまう人が多いようです。 例えば、「おすすめください」は「お勧めください」とも「お進めください」とも解釈できますよね。 英語は説明の言語なので、文章そのまま、それ以上でもそれ以下でもない。それに対して日本語って、文脈から感じ取ってね、わかってね、という言葉なんですよね。聞いている人が常に頭をフル回転させないとわからないし、想像力を必要とする。複雑な言語を使う日本は、そもそもとても頭がいいと私は思います。AIが入ってきたり、海外の文化も人もどんどん入ってくる時代だからこそ、日本語の良さや、自分たちの民族性、その難しさも素晴らしさもちゃんとわかっておいてほしいなぁと思います。胸を張ってほしいっていうか。みなさんはそう思っていないかもしれませんが、日本も、日本人もブランドです。もっと誇りを持っていいと思います。私がときどき和服を着ているのも、そんな想いを伝えたいという現れです。コピーという短い言葉には、自分が思ったより深く強く伝わる、ということがあります。日本語の短い言葉って、奥行きがあるので、いろいろな捉え方をされるのでおもしろい。『自分キャッチコピー』のテキストではそういったコピーのおもしろさまで共有したいという思いもありますね。 &nbsp;<h2>自分にキャッチコピーをつけるということ</h2>自分にキャッチコピーをつけるというワークショップは、コロナをきっかけに、私の発案で数年前に始まったものです。

この本は自分のいいところを短い言葉で他者に伝えるというところがゴールです。 つまり、『自分のために』なんですけれど、同時に書くことで読み手（他者）が発生してしまうので、『誰かのために』なんですよね。書いて伝えるっていうことはそういうことなんです。それがすごくおもしろい。その中で、「もっと上手に伝えたい」とか、「できたものがつまらない」とか、子どもたちがそれぞれ違ったものさしで感じたり考え出したりすることが大切なんです。 「まあいっかこれで…」っていう子もいるし、発表が終わっても「納得できない」とまだ考えている子もいる。それもすごくおもしろくて。そういうふうに、こうしたらもっと、と考え続けるきっかけになるのも、いいと思うんですよね。AIに『自分キャッチコピー』は絶対に書けませんから。（笑）テキストを出して1年ちょっとくらいですが、大学や企業からもワークショップや研修のお声がけをいただいています。企業研修では、職業を伝える自分キャッチコピーを考えますから、社内プレゼンスもあがります。自分を伝えることって大人になってからも重要なんですよね。コロナの影響もあると思うのですが、企業の人たちのエンゲージメントがどんどんもろくなっています。自分が「閉じて」しまうと「伝える」コミュニケーションは難しいですから。すごく刺激を受けてくださる方が多いので、大人にとっても意味のあることだとは思うんですけど、「これでいいのかな」って不安になっている大人たちに育てられるとやっぱり不安の多い子どもになってしまうので。 子どもって、結局インプットされたようにアウトプットするものだと思いますから。

<h2>自分がわかると、「大切にすべき」もわかります。</h2>

これまでワークショップで小学校へ行って、1,000人近くの子どもたちを見てきましたが、ごくわずかですが、ときどき、キラッと光る子がいるんですよね。 どこが違うかっていうと、本質を見抜く力みたいなものがもうあるんですよね。そんな子どもはそう多くないですが、凸凹の多い子どもも私は気になる。私は真剣に日本人からスティーブ・ジョブスのような人を出したいなと思ってます。あるとき、ワークショップのあとで、「私は自分が変わっていて、変だと思っているんですけど、それでいいんだって思いました」って言ってくれた子がいたんです。すごく嬉しくて、涙が出そうになりました。 自分にキャッチコピーをつけるということは自分に丸をしてあげることでもありますから。

今、希望がなくて不安しかない、と思っている若者が多いですよね。でも不安というのは自分の中でつくってしまうものだから、人が取り除いてくれるものではない。だから、不安じゃない状態をつくるためには、人との違いをわかって、自分の輪郭を言葉でつくっておく必要があるんじゃないかなと。 それが結局、自分は自分でいいという自尊心につながっていきます。まだ頭のやわらかいうちに、そういうことも伝えたくてこのテキストをつくりました。 見つめたいのは不安ではなく、希望です。希望を見える化するのもまた言葉ですから、コピーを長く書いてきて、広く一般の方にも使える技術はたくさんあるので、それを伝えることが私のささやかな役割でもあるのかなと思っています。 このテキストは、親子間や家族でも取り組めます。この本を通して、みんなで自尊心の大切さや他者尊重について、改めて考えるきっかけになればいいなと思います。

<a href="https://jibun-catchcopy.stores.jp/items/63ce1147a63f95726b8c4878" target="_blank" rel="noopener noreferrer">「 10才からの　自分キャッチコピー　書き込み式ブック」</a> <a href="https://jibun-catchcopy.stores.jp/items/63ce1147a63f95726b8c4878" target="_blank" rel="noopener noreferrer">著作・監修　坂本和加（ブランディングコピーライター）コトリ社出版部刊</a>

編集後記SNSによる、言葉の暴力が問題視されています。JOC（日本オリンピック委員会）も、パリオリンピック開催中にも関わらず、選手に対する誹謗中傷に対して異例の声明を出しました。 携帯電話の普及で、気軽にコミュニケーションが取れるようになったことは確かに便利になりました。でも同時に、相手の顔を見ずに、言葉の持つ威力や重さを実感できないまま、簡単に言葉を投げることができるようになってしまいました。恐ろしいことです。小学生もスマホを持つようになって、LINEのやり取りで短い言葉の意味を必要以上に考えて悩んでしまったり、SNSでいいね！を求める承認欲求に振り回されるトラブルも増えています。見なくていいものまで目に入り、知らなくていいことも聞こえてしまうことで、無自覚に人と比べてしまう。そんな今の時代にこそ、自分自身をきちんと見つめて、大切にしてほしい。自分を大切に思えたら、きっと人にも優しくなれるはず、と思います。坂本さんのテキストブックをやっていくと、自分のいいところや好きを半ば無理矢理（笑）探すことになります。言葉にして、目で見て耳で聞くことによって、自分ってなかなかいいじゃん、と思ってほしい。夏休み中に親子でやってみると、お互い新しい発見があって、新たな親子関係ができるかもしれません。（構成／Soda!Soda!編集部・大谷ミサ）

<h2>インタビューした人&nbsp;</h2><figure class="image image_resized" style="width:50%;"><img style="aspect-ratio:1080/1080;" src="https://seiban.g.kuroco-img.app/files/user/topics_img/8/05/DSC_0552%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%92%E3%82%9A%E3%83%BC-2.jpg" width="1080" height="1080"></figure>

坂本 和加（さかもと わか） クリエイティブディレクター／ブランディングコピーライター「みんなでよくなっていく」ことが活動のコンセプト。皆さんのよく知っているコピーを多数書いてきた経験から、残っていく考え方の言葉化を得意とし、現在はその実装のため新事業などのブランドビルドやリブランディングに力を入れて活動しています。代表作に「カラダにピース」「健康にアイデアを」「WAON」「イット！」ほか多数。ＮＨＫ for School「アッ！とメディア」に講師出演など、企業団体向けセミナー等も経験多数。現在、合同会社 コトリ社代表。【賞歴】 毎日広告デザイン最高賞、朝日広告最高賞(広告主部門)、電通広告賞優秀賞、 ACCブランドコミュニケーション部門グランプリ、カンヌ国際広告賞グラフィック部門ゴールド、東京コピーライターズクラブ新人賞など受賞多数。 <a href="www.cotori-sha.com" target="_blank" rel="noopener noreferrer">www.cotori-sha.com</a>【書籍】 『ひとこと化　「強く、深い言葉」のつくり方』ダイヤモンド社 翻訳絵本『ヌードルたべるプードル』ＮＨＫ出版 <a href="https://jibun-catchcopy.stores.jp/items/63ce1147a63f95726b8c4878" target="_blank" rel="noopener noreferrer">『自分キャッチコピー書き込み式ブック』</a> 【講師出演中】 NHK　Eテレ「アッ！とメディア」ハートにささることば～キャッチコピー～

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