SODA VOICE

「今の時代、英語だけは話せるようになってもらいたい」と早くからお子さんの英語教育をはじめられている保護者の方も多いのではないでしょうか。 Soda!Soda!では、10代から世界を舞台に転戦したトップアスリート杉山愛さんと、語学学習のプロフェッショナルであり、グローバルコミュニケーター本間正人先生に「真のグローバルコミュニケーション力とは何か」について対談していただきました。お二人の考えるこれからの英語の学びや、子どもの探究心を育むために親ができることについて、実体験を踏まえて広く深く語っていただいた会話の内容は、永久保存版ともいえるほど、子どもの可能性を広げるグローバルな学びのヒントが随所にちりばめられています。前編では、杉山さんが現役時代の経験から感じたグローバルコミュニケーションの大切さや、本間先生が考える語学学習のポイントを交えながら、使える語学力を身につけるための英語教育について深掘りしていきます。 &nbsp;※本記事は、2022年にYouTubeで公開された対談の内容の一部を記事に起こしたものです。

（左）本間正人／「学習学」「最新学習歴」の提唱者であり、「楽しくて、即、役に立つ」参加型研修の講師としてアクティブ・ラーニングを25年以上実践し、「研修講師塾」「調和塾」を主宰する。京都芸術大学教授、社会情報大学院大学客員教授、学習学協会代表理事、大学イノベーション研究所理事、ハロードリーム実行委員会理事、一般財団法人クロスオーバーキャリア理事。コーチングや英語学習法、ほめ言葉などの著書79冊。 東京大学文学部社会学科卒業、ミネソタ大学大学院修了（成人教育学 Ph.D.）。ミネソタ州政府貿易局、松下政経塾研究主担当、NHK教育テレビ「実践ビジネス英会話」の講師などを歴任。 &nbsp;2008年からスタートしたハロードリーム「笑顔のコーチング」は家庭や職場でお互いの笑顔を引き出し、関係を良くするコミュニケーションの方法を紹介する体験型の講座。47都道府県すべてで開催。&nbsp;最新刊は『100年学習時代』（BOW BOOKS）、「やさしい英語でSDGs」（山本ミッシェールのぞみ共著、合同出版）、「図解決定版 コーチングの基本が身につく本」（学研プラズ） らーのろじー株式会社（Learnology, Co. Ltd.）　<a href="https://learnology.co.jp/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">https://learnology.co.jp/</a> （右）杉山愛 スポーツコメンテーター元プロテニスプレーヤー &nbsp;。4歳でラケットを握り、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位に輝く。 &nbsp; 17歳でプロに転向し、34歳まで17年間のプロツアーを転戦。 &nbsp;グランドスラムでは女子ダブルスで3度の優勝、混合ダブルスでも優勝を経験し、グランドスラムのシングルス連続出場62回は女子歴代1位の記録。WTAツアー最高世界ランク　シングルス8位　ダブルス1位。 &nbsp;オリンピック4回連続（アトランタ、シドニー、アテネ、北京）出場。 &nbsp;2009年10月現役を引退。情報番組のゲストコメンテイター、グランドスラムのコメンテイター＆解説など多方面で活躍中。 &nbsp;2015年7月に第一子（男の子）、2021年7月に第二子（女の子）を出産し2児の母に。 &nbsp;2023年度より女子の国別対抗戦であるビリー・ジーン・キング・カップを戦う日本代表監督に就任。 Instagram <a href="https://www.instagram.com/aisugiyamaofficial/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">@aisugiyamaofficial</a> &nbsp;<h2>試行錯誤の杉山家の英語教育</h2>杉山：グローバルな社会では、文化も違えば国民性も違ういろいろな人と出会う中で、やっぱり世界の共通語である英語が話せたらいいなと思いますね。なぜなら私自身、ツアーで転戦したときに、「ここがもっとスムーズにしゃべれたら」とか「これをストレスに感じなかったらな」と思うことがたくさんあったので、「気がついたら話せてた」「気がついたらわかってた」っていう英語力があったらいいのにな、と思っていたんです。 実は、長男のときにトライしたんです。ですが、全然受け入れられなかったみたいで。日本語は話せるようになった2歳ぐらいのときだったと思うんですけど、ある日突然「英語やめて」って言ってきたんです。そのときにハッとして「本人が嫌がってるならしょうがない」。 英語はコミュニケーションツールであって、そこが重要なんじゃなくて、しっかりとコミュニケーションを取っていくことの方が親子としての絆で大事だと思って、そこから一切やめたんですね。 でも小学校で英語の授業が始まったのもあって、最近は興味が出てきたみたいなので、いまがタイミングかな、と思っているところです。本間：人生100年時代ですからね。ある時期「英語やめて」って言ってた子が「英語お願い！」って変わることがあるかもしれないんでね。何かのきっかけで英語スイッチが入るかもしれないし。 以前は外国語活動で成績がつかなかった英語が、いま教科になりまして（小学）3、4年生から英語必修になったんだけど「英語嫌いの低年齢化を進めないで」というのが僕の願いです。 環境があって、楽しく学べて、好きになれる状況だったらいいんですけれど。単語を憶えなさいって無理やり詰め込まれたら、それこそ「勘弁して」になっちゃうと思うんで。

<h2>海外の人とコミュニケーションが取れる目安は2,000時間の英語学習</h2>本間：いろんな説があると思うんですが、僕はノンネイティブとして十分な英語運用能力というのは2,000時間というのを採用しているんです。杉山：2,000時間！本間：0からはじめて2,000時間で、ネイティブのようにはなれないけれども、海外の人と不便なくコミュニケーションが取れるためのひとつの目安が2,000時間。 「観光の英語」に絞ったら2,000時間もいらないんですよ。だから目的に合わせて、になるんですけど。 実は2,000時間っていうのは、日本人の平均的な労働時間の一年分なんですよね。例えば1日1時間やったら5年半なんです。 愛さんご自身はどんな風に英語を磨いてこられたんですか？杉山：私は英語が大好きだったんですよ。昔、カードを1枚1枚スライドで流していって遊ぶ。本間：ああ、磁気カードの！杉山：それで「3匹のこぶた」だったり「ハンプティ・ダンプティ」だったりをまねして、単語をリピートしたり。結構しゃべっていたんですよね。 そこから7歳で「海外で活躍するプロになりたい」という夢が見つかってからは、目が海外に向かっていたので、かなり小さいときから英語に興味があったんです。なので、英語の勉強にも力が入りましたね。 そこからは独学ですけれど、遠征ではなるべく英語にふれる。ハチャメチャな英語ですけど、コミュニケーション取って、どんどんしゃべっていくということをやっていきましたね。

<h2>文法や発音よりも英語を使ったコミュニケーションが大事</h2>本間：僕たちが受けてきた英語教育は「この関係代名詞 which の先行詞 book が……」って、ほとんど日本語の授業。実は英語の授業は実接触時間がすごく短くて、かつアウトプットが少ないんです。杉山：確かにあんまりしゃべってないですもんね。本間：先生の話す日本語混じりの英語をただ聞いているだけだとアウトプットはしていない。 教習所に行って、学科はあったけれどもハンドルは握ってない、みたいなね。これでは運転できるようになりませんって話なんです。 ルー大柴さんの「僕がアメリカにゴーして」みたいな話し方は、ハチャメチャだけど自分の知っているありったけの英語力を使ったコミュニケーション。この「それなりに伝わるコミュニケーション」の方が僕は大事だと思っています。ところが、日本の英語の授業では、まだ発音を細かく直されたりするもんだから、発話にブレーキをかけてしまっているケースが少なくないって聞いて。それじゃあ話さなくなるはずですよね。

<h2>英語は好きなことや興味があることから攻めていくといい</h2>本間：たとえばダブルスでパートナーとコミュニケーションを取るのは、基本的に全部英語じゃないですか。そういうときに難しさとか意識していたことって、どんなことがありますか？杉山：試合中の作戦はテニス用語ですので、比較的簡単なんですよね。それよりも「ちょっとお茶しよう」「ご飯しよう」とか日常会話になったときにコートでは使わない単語が必要になってくるので難しさを感じましたね。そこが楽しくなると、ツアーも楽しくなるんですよね。最初はテニス用語がメインでしたけれども、テニスがあったからこそ共通の話題で会話が弾むっていうのが私にとっては大きかった。自分の興味あることだったら「そこ、何て言うんだろう？」って知りたくなりますよね。 なので英語をやるときは自分の好きな分野から攻めていくのは、ひとつありなのかなと思いますよね。本間：本当にそうですよ。自分が話したい趣味や興味のあること。この部分の英語を自分なりに学んだらいい。ちょっとジャパニーズ・イングリッシュだけどマイ・イングリッシュでいいと思ってるんです。 杉山愛さんの場合はテニス。あるエンジニアの場合には自分の専門分野であるエンジニアリングのこと。経済や医学でもいい。観光でホテルの予約とレストランで食事ができたら十分だって人も実際いっぱいいるわけですから。杉山：自分の得意分野だったらどんどん「知りたい」と思ったり、単語力も上がっていくでしょうし。本間：その入口がどんなところにあるかはわからないですから。人生100年と長いので、焦らなくてもいいんです。僕は「我田引水力（がでんいんすいりょく）」が大事だと思っていて。杉山：何ですか？その「我田引水力」って。本間：つまり自分の世界に呼んできちゃうわけ。杉山：なるほど！本間：自分の得意なステージでコミュニケーションを取ったら、そんなに引け目感じなくていいじゃないですか。杉山：日本語でもそうですね（笑）本間：自分の専門分野みたいなものを確立していくっていうのが、世界で活躍する上ですごく大事だなと思いますね。お手本だと思うのはダライ・ラマさんとかフランシスコ教皇様とかね。こういう人たちの英語ってアルゼンチン訛りだったりチベット訛りだったりする。でも世界的なメッセージが発せられるわけですよ。やっぱり中身の方が大事なわけだからね。ネイティブのように完璧であるのが格好いいように見えるけど、僕たちはジャパニーズ・イングリッシュを胸張ってしゃべればいいんだと思ってるので。杉山：向こうも理解してくれようとしますしね。本間：語学力よりもグローバルシティズン（＝地球市民）である。「違い」を否定するんじゃなくて多様性を味わえる・楽しめる・リスペクトできるマインドがすごく大事だと思うんですよね。

<h2>親も子育てを通して学び続けることで一緒に成長していきたい</h2>本間：僕は「学習学」というのをテーマに研究をしています。最終学歴も大事だけれども、人生学び続けること、「最新学習歴」の更新というのが仕事の上でもうまくいくし、人生も豊かになると思うんです。自己ベストを更新するようなつもりで、毎日何か新しいプラスアルファを取り入れていく意識で子育てをするのもいいかなと思います。杉山：私自身も後進の指導をしたいと思って、引退後大学院で勉強させてもらいましたが、選手と指導者の立場は全く違うので、課題が次々と出てきて、学びが必要です。自分の幅を広げるために今度はメンタルの学びも始めます。子育てを通して、気づきもたくさんもらったり、自分のことを知るということは発見でもあるんですが、新しいことを加えられているかっていうとなかなか…本間：発見も学習ですよ。我が子を毎日継続して見ていると、微妙な差が見えにくいものですが、観察眼が磨かれていくと、我が子の細かい違いを観察できるようになっていくということが親としてのパフォーマンスを上げていくということになると思います。親の経験は第一子の成長と同じですからね。杉山：そうですそうです。ママ7歳なので。私は、なるべく肩肘張らずに、弱さを見せながら、ママだからこうあるべき、という「べき論」はなるべく捨てていこうと思っています。&nbsp;後編は「杉山さんの子育て」や「探究力を育むためのアプローチ」などについて対話しています。公開は2025年2月中旬予定です。

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