教えてヨーコ先生

ヨーコ先生こと中曽根 陽子（なかそね・ようこ） 数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストであり、幸せな子育てを探究するマザークエスト代表。東洋経済education ✕ ICT、プレジデントオンライン、中学受験ナビなど多くのウェブメディアで執筆。『成功する子は「やりたいこと」を見つけている　子どもの探究力の育て方』（青春出版社）他著書多数。

イラスト：さぶぼーぼ（Instagram／<a href="https://www.instagram.com/sabubobo.i/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">@sabubobo.i</a>）

<h2>中学受験率は今後も高止まり？</h2>日本は少子化が進んでいると言われています。それなら「受験も簡単になっていくのではないか？」と思いますよね。 確かに、18歳人口の減少とともに、今後大学受験は易しくなっていくと言われています。しかし、こと中学受験に関しては、そうとも言えない状況なのです。 首都圏の私立国立中学校の受験者数は、2015年から2023年にかけて「9年連続」で増加。 児童数の減少に伴い2024年は少し減ったものの、受験率は逆に上昇しました。 公立中高一貫校を入れると、首都圏の小学生のおよそ4.7人に1人が中学受験をしています。受験者数が増えている背景のひとつとして、都心の児童数がさほど減っていないということがあります。 実際、タワーマンションの新築が相次ぐ湾岸エリアを筆頭に、東京都心ではクラスの半数以上が受験をするという学校も珍しくありません。 これまで中学受験者がさほど多くはなかった城北エリアや埼玉県でも、中学受験を選択する家庭は増えています。 首都圏に次いで中学受験が盛んな関西圏では、少子化の影響で小学校卒業児童数は減少しているにも関わらず、受験者実数は20年ぶりに2年連続の増加、中学受験率も過去3番目の高さになりました。このような状況から、業界関係者の間では、少子化で中学受験者数は減少していくと思われるものの、公教育への不満もあり、受験率は今後も高止まりするのではないかと言われています。 後押しになっているのが、国の高等学校等就学支援金（返還不要の授業料支援）制度改正で、私立高校に通う生徒にも助成が行われていることです。 「高校授業料実質無償化」という言葉に「タダで行けるの？」と思われた方もいるかもしれませんが、そういうことではありません。助成を超えた分の授業料やそれ以外にかかる費用の負担はあります。 でも、私学に通いやすくなることは確かですね。　全国的に見れば、私立中学に通っている生徒は8％弱で、ごく一部ではありますが、全国に公立中高一貫校の設置も進み、地方から出てきた親たちの間でも、中高一貫教育への認識が広まったことも中学受験者数の増加の要因と言えるでしょう。 つまり、中学受験が特別なことではなくなってきたのです。加えて、両親ともに働いていて経済力があり、社会で求められる力の変化を実感しているので、コストはかかっても、子どもにより良い環境を与えたいと考える家庭が増えているということが挙げられます。 良い環境の定義はさまざまですが、子どもの教育に関心が高い親たちにとって、中学受験はこれからも子どもの教育の選択肢の一つであり続けるでしょう。

<h2>大学受験も6割が総合型選抜に</h2>大学受験に関しては、以前は中高一貫教育のほうが先取り学習をしているので有利だと言われたりしましたが、いまは少し事情が変わってきています。すでに半数以上の大学が「年内入試」と呼ばれる推薦・総合型選抜を採用していているということをご存じでしょうか。 推薦・総合型選抜というのは、これまでAO入試、指定校推薦と呼ばれていたものです。 筆記試験中心の一般選抜（一般入試）が1～3月にあるのに対して、9～12月に実施・合否が出ることが多く、通称年内入試と呼ばれています。文科省の調査によると、2023年度入試の全大学の選抜区分中、半数が年内入試になっています。私大に限れば6割にのぼり、国公立大学も今後総合型選抜の割合を増やすとしています。この選抜は自分が何に興味を持っていて、大学で何をしたいかを明らかにする必要があるので、6年間でさまざまなことを体験しながら、じっくりとその答えを探していけるという点で、一貫教育のほうがより有利だと言えるかもしれません。 学習指導要領が変わり、探究教育は公立中学でも行われていくので、中高一貫教育でないとダメだということではありません。 ただ、現状は、どうしても高校受験のための勉強のウエイトが大きくなるのは事実ですし、こうした学びは時間がかかるので、一貫教育のほうが取り入れやすいのです。<h2> 高校受験との違いを知った上で選択を</h2>中学受験と高校受験では、受験のシステムも違います。高校受験は義務教育でないとはいえ、ほぼ全員が受験して進学するので、高校受験浪人を生み出さないための構造的な仕組みができあがっています。 全滅しないようにする＝収容という考えかたのもとに進路指導が行われるのです。つまり、行きたい学校を受けるというより「受かる学校を受ける」というのが、高校受験の世界においてはある意味、常識です。 そのために偏差値の輪切りによって受験校を振り分けられる傾向があります。その偏差値も、同じ学校でも高校のほうが中学より高くなるのは、母集団が大きくなるからです。 よく、「中学受験でうまくいかなかったら、高校受験でリベンジさせる」という人がいますが、システムが違うので要注意です。 また、高校受験は当日のテストだけでなく、授業中の態度などが評価点になる内申点も重視されます。私学の推薦入試でも、学校が求める内申基準を満たしていることが、合格の可能性を高めます。 本来内申書は、ペーパーテストでは測れない力を見るためにあるのですが、それが生徒たちを型にはめているという面が強く、少しずつですがその取り扱いを工夫する自治体も出てきています。 しかし、高校受験のほうが偏差値的学力で進学先が決まる傾向は強い印象です。さらに、女子の難関校を中心に高校募集を停止する学校が増えていることから、選択肢が多い中学受験を選択するという人は多いです。 こう書くと、中学受験のほうが絶対いいのかと思われるかもしれませんが、もちろん高校受験のメリットもあります。 まず、教育費の違いです。高校授業料無償化の範囲が広がっているので、負担は減っているとはいえ、中学から私学に通えば、その分の教育費はかさみます。 塾通いは、中学受験・高校受験どちらもするとして、その費用は前者のほうが負担が大きい傾向があります。 最近は中学受験でも習い事と併用しながらの受験も可能になっていますが、高校受験のほうが、小学校から塾通いをする必要がなく、子ども時代をのびのび過ごせるから高校受験を選ぶという人も多いでしょう。中学受験を選ぶ理由として、同じような環境の人が集まるので安心という声がある一方で、交友関係が固定化しやすいという一面も。多様性があったほうが良いとか、高校で環境をリセットできたほうが良いという考え方もありますね。また、親の役割も違います。 中学受験はほとんどの場合、親が主導して道をつくり、子どもがその上を走る二人三脚型になります。学校選びも、中学受験ではほぼ親の仕事になります。 高校受験では、そもそもみんなが受験するという前提が違いますし、年齢的にも子どもが主体の受験になります。 もちろん、中学受験も親がすべてをコントロールするのではなく、上手にサポートする必要がありますが、高校受験では、子どもが思春期に入っているので、より子どもの意思が優先されます。

<h2>中学受験をするということは、中高一貫教育を選択するということ</h2>このように、中学受験と高校受験それぞれにメリットデメリットがありますが、中学受験をするということは、中高一貫教育を選ぶということになります。 なので、中学受験をするかしないかは、中高一貫教育を選ぶか否かの選択になります。 中高一貫教育とは、中学と高校を接続し，6年間の学校生活の中で計画的・継続的な教育課程を展開することにより、生徒の個性や創造性を伸ばすことを目的として設けられています。中高一貫教育の特徴としてよく言われているのは、<ul><li>高校受験がない分、のびのびと過ごせる。</li><li>特色あるカリキュラムで学ぶことができる</li><li>大学受験に有利</li></ul>などです。 確かに、高校入試がない分、高校受験のための勉強に時間を割く必要がないので、部活や学校生活、習いごとなどにじっくり取り組めるでしょう。 一方で、高校受験に伴う緊張感もないため、勉強へのモチベーションを高く維持し続けることは難しく、中学受験でがんばった分、ホッとしてしまい、勉強が疎かになってしまう場合があります。よく言われる中だるみですね。ただ、中学校と高等学校を接続し，比較的自由にカリキュラムを組めるので、受験のためではない、本質的な学びをすることができます。 私は、一貫教育の最大のメリットは、子どもから大人になっていく時期に、成長段階に応じて、さまざまな経験を通して、じっくり時間をかけながら自分に向き合うことができる点ではないかと考えています。<h2> 中学受験も多様化してきている</h2>

中学受験のデメリットとして、習い事を制限して、長期間の塾通いをしなくてはいけないということが挙げられると思います。確かに、少しでも偏差値の高い学校を目指して、最難関校に多数の合格実績を出す大手受験塾に通いガッツリ取り組む層は依然として多いのですが、首都圏の中学受験は少し様変わりしてきています。 大きく分けて、保護者の意識は次の3つの層に分かれるようです。①　従来通り4年生からしっかり進学塾に通って4科受験で難関校を目指す層②　塾には通っているが、偏差値重視ではなく我が子にあった学校を選びたいという層③　習い事と併用しながら、公立中高一貫校との併願や2科目受験と新タイプ入試を活用して中学受験をする。あるいは、志望校に行けなかったら公立でいいと割り切っている"ライトな受験"をする層。 昨今の中学受験者数を押し上げているボリュームゾーンは②で、③も増えているようです。そんな動向を反映して、中堅校と言われる学校の受験者数が増えているのです。また、入試自体も多様化し、2科目あるいは得意科目1科目だけでも挑戦できる入試や英語入試、作文と面接、プレゼンやワークショップ型など教科学習以外の能力を測る入試もあります。 私の周りでも、初めから②の考え方をする人が多くなっている印象ですが、中には①でやり始めたけれど、塾の課題をこなせず成績が伸び悩み、途中で個別指導転塾などに転塾し、4科目から2科目に減らして、入れそうな学校を選ぶというパターンも多いです。首都圏の私学では、新しい多様な力を持つ生徒を受け入れようと、思考力を問う独自の入試や、グループワーク型入試、得意なことをプレゼンする自己アピール入試、AL（アクティブラーニングの略）型入試、PBL（問題解決）型入試、レゴブロックを使って考えるモノづくり入試、プログラミング入試など、さまざまなスタイルの入試が出現しています。 これらを総称して『新タイプ入試』と呼んでいます。さらに、小学校でも英語が教科化されたこともあり、ここ数年で急速に増えているのが、英語入試です。 こちらも実施校は2014年の15校から、10年で142校へと拡大。英検などのスコアによる優遇制度を設けている学校も増えています。優遇対象となる英検の取得級は、英検5級以上が22％、4級以上が26%、3級以上が35%となっています。小さいころから英語を学んでいる子どもも増えていますが、英検を取得しているとアドバンテージになります。 このような受験の多様化を受けて、無理をせず、習い事も続けながら受験をしようという家庭も増えていきています。 &nbsp;<h2>「我が家の受験軸」を持とう</h2>ここまで、中学受験と高校受験の違いを見てきましたが、中学受験は、多くの場合、親がその選択をし、実際に受験するのは子どもという二重構造になります。 小学生が挑む受験ですから、親の伴走が欠かせません。それだけに、中学受験を選択するのであれば、何のために中学受験をするのかという目的を明らかにし、どのような受験にしていくのかというスタンスを決めて取り組むことが、最高の合格にたどり着く近道です。私はそれを「受験軸」と呼んでいます。 中学受験をするにしてもしないにしても、取り組む先にあるものを知ってから「我が家の軸」をつくってくださいね。この記事は、私の新刊<a href="https://www.amazon.co.jp/%EF%BC%9C%E4%B8%AD%E5%AD%A6%E5%8F%97%E9%A8%93%EF%BC%9E%E8%A6%AA%E5%AD%90%E3%81%A7%E5%8B%9D%E3%81%A1%E3%81%A8%E3%82%8B%E6%9C%80%E9%AB%98%E3%81%AE%E5%90%88%E6%A0%BC-%E4%B8%AD%E6%9B%BD%E6%A0%B9%E9%99%BD%E5%AD%90/dp/4413233751" target="_blank" rel="noopener noreferrer">『中学受験　親子で勝ち取る最高の合格』（青春出版社）</a>から、その一部を紹介しています。 本では、こちらの記事で紹介した以外にも、塾選び、学校選びの具体的な方法、受験軸のつくり方、親子の信頼関係のつくり方など、後悔しない受験のために大事なことをまとめています。 ぜひ、ご家庭の「軸」をつくる教科書として活用してください。

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