教えてヨーコ先生

ヨーコ先生こと中曽根 陽子（なかそね・ようこ） 数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストであり、幸せな子育てを探究するマザークエスト代表。東洋経済education ✕ ICT、プレジデントオンライン、中学受験ナビなど多くのウェブメディアで執筆。『成功する子は「やりたいこと」を見つけている　子どもの探究力の育て方』（青春出版社）他著書多数。

イラスト：さぶぼーぼ（Instagram／<a href="https://www.instagram.com/sabubobo.i/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">@sabubobo.i</a>）

最近「探究学習」という言葉をよく見かけるようになりました。
でも正直、正しい意味がよくわかりません。「探究」の意味や、子どもにとって必要なのかどうかも知りたいです。

教育の世界では、2022年度から導入され「高等学校学習指導要領」の中で、総合的な探究の時間や「探究」という名がつく科目が一気に新設されました。
また、それに先駆けて、小中学校でも探究学習が行われるようになっているので、「探究」という言葉をよく耳にするようになってきました。
しかし、その意味がはっきりわからないという方も多いかもしれませんね。

<h2>探究学習は問題解決型の学習のこと</h2>まず、「探究」という言葉を辞書で引くと、「一つのテーマや課題に対して深く追求し、その本質や原理を理解しようとするプロセス」とあります。 では、学校で行われる「探究学習」は、ほかの科目とどのように違うのでしょうか。文部科学省では「探究（探究学習）」を「問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく一連の学習活動のこと」と定義しています。これは、先生から教科書の内容を受け身で教わり、与えられた問題に解答していくような従来の教育ではなく、生徒自身が問題意識を持ち、意見を出し合いながら主体的に学んでいく学習活動です。 これまでの教育とはずいぶん違いますよね。では、なぜ学校で探究学習が取り入れられるようになったのでしょうか。学習指導要領には、「子どもたちが生きるのは、予測不能な新しい時代。そこで求められる資質・能力は、変化の激しい社会を生きる力であり、具体的には自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力だ」と書かれています。 つまり、正解のない実社会に通用するような資質・能力を育てる必要があるからなのです。 これまでの学校教育では、ともすると“正解”といわれる知識・技能を習得させることを中心にした授業になっていましたが、いまは「正解のない」時代です。 そこで、自ら課題を発見して、その課題を解決するために情報収集をして、皆で意見を出し合い、解決に向かうプロセスを体験しながら問題解決能力 を身につけていく「探究（探究学習）」が取り入れられるようになったのです。つまり「探究力」とは、自ら課題を発見し、その課題を解決していく力といえるでしょう。

<h2>“自分軸をつくる力”が探究力</h2>

私たちが学校に通っていたころとはずいぶん変わっているのですね。
でも、仕事でも自ら課題を発見し、その課題を解決していく力は重要視されているので納得できました。

そうですね。 ただ、私はそれに加えて、もう少し具体的に「探究力」を捉えています。それは「自分軸をつくっていく力」です。子どもたちが生きるのは、先行きが不透明で変化の激しい時代です。 その中で、子どもたちが自分らしく幸せに生きるためには、子ども自身が「自分は何が好きで、何がしたくて、何ができるのか」を探していくことが大切ではないでしょうか。でも、それは簡単に見つかるものではありません。だから、それを見つけていくプロセスが「探究」だと思うのです。 実際、自分のやりたいことを自分で探し、自分で決め、それを探究する力があることは、子どもの将来の幸福度にも大きく影響します。ここで一つの研究を紹介しましょう。 2万人の日本人を対象に行った調査（※1）では、所得や学歴より、進路など自分の大事なことを自分で決めたか否かが幸福を左右する大きな要因であり、人生の大事な岐路を自分で決定してきた人ほど、前向き思考で不安感が少ないということがわかっています。そもそも、親は子どもの人生をずっと見守れるわけではありません。お子さんが自分で自分の人生の方向を決めていけるように、育ててあげてほしいと思います。（※1）幸福感と自己決定―日本における実証研究　西村 和雄／八木 匡　 　<a href="https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/18090006.html">https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/18090006.html</a> &nbsp;<h2>探究力を育てるためにできること</h2>

それにはとても共感できました。
では、具体的にはどうしたらいいのでしょうか。

自己決定ができる子に育てるには、親にも覚悟が必要です。 親は、子どもには幸せになってほしいと思うが故に「失敗をしてほしくない」と思いがちです。しかし、「自分は何が好きで、何がしたくて、何ができるのか」を探していくためには、試行錯誤が必要です。そのプロセスでは、うまくいかないこともたくさんあるでしょう。 そんなとき、子どもが失敗しないように、親がなんでも先回りしてお膳立てしていたら、自分で考えて決める力が身につきづらくなってしまいます。ですから、子どもの探究力を育むために親がやるべきことは、子どもが「好きなこと」や「やりたい」ことを見つけるサポートをして、それを伸ばす環境をつくることです。そこで、拙書<a href="https://amzn.to/4lIlek0" target="_blank" rel="noopener noreferrer">『成功する子はやりたいことを見つけている　子どもの探究力の育て方』</a> （青春出版社）の中から、大事なポイントを紹介しましょう。 それは、「焦らない・決めつけない・コントロールしない」の三つです。

<h3>まず「焦らない子育て」</h3>前提として「子どもの年齢によって、脳の発達の順番が決まっている」ということを念頭に置くことが大切です。「あれもこれも学ばせたい」「早く○○ができるようになってほしい」と焦って、脳の発達段階に合わないハイレベルな知識を無理に教え込んだり、生活習慣を乱すことのないようにしましょう。忘れてはいけないのは、何をするにもまずはからだが資本ということです。 探究力を発揮するためには、土台となる元気なからだとあたまと心が育つことが欠かせません。そのためには、第一に、人間は昼行性の動物ですから早寝早起きをして、一日の生活リズムを整え、睡眠をしっかりとること。 第二に適度な運動でからだをつくることを心がけましょう。 &nbsp; &nbsp;<h3>次に「決めつけない子育て」</h3>子どもの限界を親が決めつけないということです。親としては、無意識に子どもの「できないこと」に目が向いてしまい、そこをなんとか修正しようとしがちです。しかし、実は「できないこと」より「できているところ」に注目した方が人は伸びるといわれています。「この子はこういう子だ」と頭ごなしにレッテルを貼らず、“子どものいいところを見つけるメガネ”をかけるような気持ちで、お子さんの可能性を開いてあげましょう。 &nbsp;<h3>最後に「コントロールしない子育て」</h3>子育てのスタイルとして、「放任と過保護、どちらがよくないか」ということが話題に上ります。 結論としては、どちらにも偏らないのがベストなのですが、私たち親はついつい子どもをコントロールしがちではないでしょうか。 もしかしたら、皆さんも「子どものため」と思って、指示や命令をしてしまっていませんか？しかし、本当に大事なのは、親が子どもをコントロールするのではなく「子どもが自分で自分をコントロールできるように育てる」ことです。たとえば、ゲームやYouTubeの時間を決める場合も、親が頭ごなしに決めるのではなく、子どもが自分で決められるように導く方が、自分で考えて動けるようになります。 親の我慢強さも必要にはなってきますが、結果的に子どもは自立し、親としても「○○しなさい！」と何度も言うエネルギーを使わずにすみます。 「探究力」を育てるチャンスは、日常生活の中にたくさんあります。 一度でうまくいかなくても、失敗は成長のチャンスです。 「焦らない・決めつけない・コントロールしない」を子育てのキーワードにして、お子さんが自分で自分の人生をつくっていく「探究力」のサポートをしていきましょう。

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